新聞記者の視点で描く重厚な政治サスペンス『消されたヘッドライン』

2023年6月22日

とてもよくできたサスペンスで、面白かったです!!

これはイギリスBBC製作のドラマを映画化したもので、舞台をロンドンからワシントンD.C.に、そして今のアメリカ社会にうまく物語を置き換えていて興味深い内容でした。
それにまた、重厚で緊張感あふれるカメラワークや、物語に引き込まれる脚本も良くて、さらに俳優さんたちが皆一流なので、完成度が高くて見応えじゅうぶんといった感じです。

色々に興味深くて、語る部分は多い作品です。
私は、新聞の印刷所の様子がとても印象に残りました。
ワシントン・ポストの印刷所でワシントン・グローブ社の新聞を実際に印刷したのだそうで、やけにリアルで凄かった。

劇中、ブログと新聞記事を比較していたり、今や情報社会の先頭にもなったインターネットと、超アナログな新聞との対比が意味深いですね。
インターネットって、確かに情報伝達の速さはあるけれど、なんというか、実体がないというか。
人間というのは、確かな現実感を本来は求めてやまないのだと最近考えていることが多かったので、このあたりの表現はとても心に残りました。

「こんな大事件は新聞で読みたい」
というセリフにも表れていました。

おそらく、マクドナルド監督って、ドキュメンタリー界で活躍してきた人なので、現実感の出し方とか、生身の人間たちを描くことには達人なのではと思いました。

ベン・アフレック、こういう役だと抑制の利いた雰囲気がすごくはまってて、ラッセル・クロウの演じるマカフリー記者の性質と対照的で、彼らが旧友どうしという設定も面白かったです。

ラッセルは『ワールド・オブ・ライズ』からさらに太っていたような……
それに長髪と髭が……‘70年代風で、シャンブレーのシャツにコーデュロイのジャケットなの。
タイムスリップしてるわけではなく、です。
彼は記者が嫌いだと言ってたので、わざとカッコ悪く見せてたのかも……と思えました。
冒頭の、モノを食べながらの運転シーンには笑った……
車内、思わず「汚ーい」と(笑)ふき出してしまいました。
よーするに女性を乗せていないんだな……(笑)と。
後部座席はゴミ箱化していました。

でもしかし、なぜあそこまでオシャレ度ほぼゼロ状態なラッセルが可愛く見えるのか……。
自宅でひとりエプロンなど着用し、不器用そうにマッシュポテト(インスタントね)を作るラッセルはとても微笑ましかった。
思わず『アメリカン・ギャング・スター』でも、ツナとポテトチップかなんか挟んだ身体にあまりよくなさそう~なサンドイッチ作ってるシーンとかぶってしまった。
ほとんど、キャラ的に同じなのでは……。
刑事さんのほうがもうちょっとカッコ良く演じてたかもしれないけど。

ドラマのほうではビル・ナイが演じている編集長を、映画ではヘレン・ミレンが演じています。
ビルだとやはり飄々としたいつもの感じなんだろうなあ……と想像できますが、ヘレンさんはキリリとシャープな雰囲気。
やんちゃ系なラッセルとの関係は、なにやらジェームス・ボンドとMの関係みたいでした。
ラッセルが勝手な行動に走ってはヘレンさん激怒、という感じで、しかしなぜかこの組み合わせは絶妙なのでした。

この作品で私が最も印象に残ったのは、プロダクション・デザイン。
特に凄いな~!と感心したのがワシントン・グローブ社のインテリア。
あれがセットだなんて、本当に凄い。
どでかい吹き抜け空間やガラス張り、打ちっぱなしの柱、スチールの手すりなど、‘60年代ぽいというか、懐かしさのあるモダンな建築デザインを取り入れていて、それに照明の入れ方もいいし、とにかく完成度がものすごく高いものでした。ロケかと思ったくらい。
背景が良いと、手前に映る人物もぐっと立体感が出るし、画面の重厚感が素晴らしいですね。

あと、たとえば記者のデスクまわりなども、こんな感じで、すごくリアル。
私は実際には記者のデスクに行ったことないですが、これを見ただけで、きっとこうなんだろう、って思わせる本物感が漂っていました。

それにしても大きなセットですねえ……。
こういうのは流石にハリウッドだなあ、と思います。

こちらはマカフリー記者の自宅。
このインテリアも良かった。
オシャレとかカッコイイとかではないのですが、いかにも‘70年代からのイメージを残してる仕事漬けの男の部屋っていうんでしょうか(笑)

こういった映像の完成度の高さを観ていて『大統領の陰謀』を思い出しました。
こうやってひとつひとつ思い出していると、また観たくなってきます。

どうでもいいですが邦題は無視したほうがいいかも。

増量して身体が心配なラッセル・クロウですが、R・スコット監督作『ロビン・フッド』の画像をチェックしたら、かなりスッキリ痩せていて、安心しました~楽しみです!

原作はこちら。

本作のDVDはこちら。