皮肉の詰まった走るゾンビ映画『28日後…』

名作ゾンビ映画の一つだという認識だったのですが、どうやらゾンビファンの間では賛否両論の作品のようです。
3作目が上映されたため、せっかくなのでおさらいしました。

2002年英国の作品。
『トレイン・スポッティング』などで知られる、ダニー・ボイル監督です。
まず、BGMがカッコイイ。メインテーマがいかにもロンドンって感じの、スローテンポながらじわじわと響いてくるようなロック調で、この作品の持つ混沌と暗闇と一筋の光みたいなイメージをより高めています。
繰り返し続編でも使われていて、そこも素晴らしいですね。この曲が出てくるとこのシリーズ、みたいなのが一貫してあると、すごく安心します。

このシリーズの最大の特徴は、ゾンビが走ることでしょう。
ここが賛否両論となったポイントなのですが、私としては、「待って待って!走るゾンビは卑怯じゃん!!」という感じで、非常に怖さが増していたと思いました(笑)
それはそれとして、ゾンビは走らないからこそ、ジワジワ来て怖い、弱いのに追いつかれて噛まれるところが怖い、といった意見もよく理解できます。

“全裸のキリアン・マーフィ”からスタートする(その前に少し感染のいきさつがありますが)この映画は、感染が広がりきって誰もいなくなったロンドンで目覚める何も知らない主人公、という設定で始まります。
これも皮肉ですよね。主人公はただ不運にも仕事中の事故で入院していただけで、おそらく昏睡状態になり、ひとり病室で4週間たまたま生き延びてしまったのです。起きたら誰も居ないし、ロンドンは変わり果てている。

この感染源というのが、そもそも”何らかの病気に感染したチンパンジーに噛まれた”から。
じゃあそのチンパンジーは一体、何の病気になぜ感染していたのか……?
何やら人間がチンパンジー(ヒトにかなり近い実験体)を使い怪しい実験を繰り返して、しかし何かの間違いでよろしくない突然変異のような事が起こったのではないかと、邪推してしまうのですが、もしそうだとしたら、かなりの皮肉なんだなあと思います。
動物実験は良くない。本当に。
欲にまみれた研究も良くない。人間だけですからね、そんなくだらないことをするのは。

ゾンビものに出てくる、武器を持った黒人女性、非常に信頼できます。
『ウォーキング・デッド』のミショーンもめちゃくちゃ強いですもんね。生命力!って感じがする。

主人公ジム(キリアン)と、セリーナ(ナオミ・ハリス)は、放浪の旅を続けるうち、とある親子に出会います。この父親役がブレンダン・グリーソン。優しくて良いパパでした。
彼らもまた、やっとの生活をしており、仲間を待っていたのです。
傍受した無線によると、少し離れたマンチェスターに軍が基地を作ってくれているとか。そこへ行けば、当分は生き延びられそうだ。
そして4人は車で旅を始めます。
なんやかんやあって(道中はちょっと楽しかったのですが)、やっと辿り着いた軍基地……というか、そこは、貴族の屋敷を小隊が乗っ取っただけでしたが、とりあえず兵士が何人かいるし、食料もある。安全そう。
ところがそれは大間違いで、一番ヤバいのがこの人たちだったんですね。

ゾンビものは、ひたすらゾンビが怖くてキモくて、それを何とか退治する話と、
ゾンビがいる世界になってしまい、それでも生きるために四苦八苦する人間だが、その奮闘の中で見たものは同じ仲間である生きた人間の恐ろしさだった話と、2種類に分かれるような気がします。
『28日後…』は後者です。
特に後半の、屋敷に着いてからのシーンは、イギリス軍の小隊のどうしようもなさみたいな部分を滑稽かつ残酷に描いていて、いかに戦争が人を狂わせるかといったメッセージを感じました。
少佐の「感染前も人々は殺し合ってた」というセリフが印象的でした。
そういえば、教会に入ったら沢山の死体が折り重なっていて、そこへゾンビと化した神父様が襲いかかってくるシーンも印象的でした。皮肉がエグいって、監督。

結局、人間が一番怖い。
そうやって考えると同時に、「ゾンビになったら人間じゃないんだ」と判断している自分に気付かされます。
それもまた、恐ろしい。

こういった”死”のテーマを扱いつつも、重くなりすぎていないのは、ひたすらに映像のキレの良さや、BGMのカッコよさなのでしょうか。
3人が無事で本当に良かった。

続編の『28週後…』も見直しました。
3作目がとても楽しみです。

 

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