シェイプ・オブ・ウォーター

2018年5月10日

制作:2017年アメリカ 123分
原題:The Shape of Water
監督:ギレルモ・デル・トロ
脚本:ギレルモ・デル・トロ、ヴァネッサ・テイラー
原案:ギレルモ・デル・トロ
音楽:アレクサンドル・デスプラ
撮影:ダン・ローストセン(英語版)
編集:シドニー・ウォリンスキー

イライザ・エスポジート:サリー・ホーキンス
ストリックランド:マイケル・シャノン(咲野俊介)
ジャイルズ:リチャード・ジェンキンス(安原義人)
不思議な生きもの(彼):ダグ・ジョーンズ
ロバート・ホフステトラー博士:マイケル・スタールバーグ(上田燿司)
ゼルダ:オクタヴィア・スペンサー
エレイン・ストリックランド:ローレン・リー・スミス
ホイト将軍:ニック・サーシー
フレミング:デヴィッド・ヒューレット


2017年12月1日 (ニューヨーク)/123分

「彼は人間ではない」
《助けないなら私達こそ人間ではない!》

一風変わった、レトロなおとぎ話。

以前からデル・トロ監督の作品は大好きなのですが、彼独特の世界観は不変なのだな~と思わせてくれ、この作品ではますます深く、そして完成度が上がっている!と思いました。

でも演出は例によって、ちょっとグロい部分もあったりするのですが、苦手な人はそこをスルーしてでも観る価値はあると思います。


はみ出し者に捧げる映画


子供の頃、円谷プロの“ウルトラQ”という怪獣シリーズを、毎週かかさず観ていました。
怪獣のビジュアルが、幼少期の私にはちょっと怖かったりして、おばあちゃんのヒザに顔をうずめていたことが記憶に残っているんですね。
それでも、なぜか惹きつけられていました。当時は、怖いもの見たさな部分が多かったように思います。しかし少し成長して(中学生くらい)からあらためて見ると、怪獣たちはとても可愛くて魅力的なことに気付いたのでした。
ウルトラマン、ウルトラセブンと、ウルトラシリーズのファンで、毎週夢中で観ていた。
今にして思えば、怪獣たちは、環境汚染や化学の発達と共に、その歪(ひずみ)から生み出された、人間たちのエゴの産物だったのですね。

大人になっても、異形のものたちは、私を魅了し続けてやまないのです。

『シェイプ・オブ・ウォーター』には、
マイノリティへの共感、敬意、愛が散りばめられています。

けど、“マイノリティ”とか、“善”とか“悪”とか、“美”とか“醜”とか……
そうした概念を、すべて突き抜けたものが本作なのか、と思うのです。

デル・トロ監督は“僕もメキシコ出身です”と、オスカー授賞式で述べていました。

魅力的な登場人物たちと、古い映画のオマージュ


ヒロインの声が出せないのは、人魚姫のオマージュでしょうか。

売れない画家、折りたたみベッド=おお、これは「巴里のアメリカ人」か?
「巴里のアメリカ人」の冒頭シーンで出てくるベッドは、天井に引き上げ式に片付けられていたなあ。

安アパートの隣人、リチャード・ジェンキンスの味のある演技が素晴らしい。
作品に深みを添えていました。
猫を飼っているのは、ヘルボーイと同じですね。

映画館の上って、ちょっと住んでみたい気がします。
レトロでジャンクな、ヨーロッパの香りがするアパート。
ワクワクします。

半魚人を見た瞬間、「進化したエイブだ!」と思わず身を乗り出してしまいました。
中の人は同じ俳優さん、ダグ・ジョーンズさんなんですね。
彼はほっそり体形なので、今回はモーションキャプチャーなのか?と思っていたら、着ぐるみとは!
実に非常に・・・よくできております・・・まるで存在するかのように。
半魚人、かなり【イケメン】ではないですか。というか色々とかなりハイスペックです。
これは恋しちゃうよな~(←監督の罠にはまる)
純粋無垢なその美しい眼・・・辻氏作品です。流石です。恐れ入ってしまいます。
独学で素材を作り出す天才の辻さんでなければ、未だかつて無いハイクオリティの“半魚人の目”は作れなかったのではないでしょうか。
思わず、その眼に惹き込まれてしまうのです・・・
うっとりと・・・
で、眼力に加えルックスが超絶カッコイイ、心が美しいとくれば、イライザが熱愛してしまうのも大納得なのです。
もう私、人魚になって彼と水中で一緒に暮らすんだわ~~~という気持ち(妄想)になっても当然。
しかも、彼女の勤務先が人間社会の闇を凝縮したような所だから、なおさらですわ。
ちなみに、「ヘルボーイ」公開当時、私の友人女子達の間では、もっぱら「エイブ可愛いっ!!!」と、エイブ大人気だったんですよね~。


「ヘルプ」のメイド役でオスカーを受賞しているオクタヴィア・スペンサー。
どどーんとした安定感、安心感が全身から漂っています。
大地の母的なイメージですね。
イライザの無音を補うのが、おしゃべりの親友ゼルダなのです。
このあたりのバランスも絶妙です。

そして作品中、かなり重要な位置づけであるのが、悪役です。
もうね、めっちゃくちゃ悪くないとね。嫌悪感MAXって感じで。
マイケル・シャノンのイカれっぷりが、もう、笑うしかなくて(苦笑)。
ボリボリ飴を噛み砕いたり、薬ガブ飲みしたり、暴力当たり前だし、セクハラしたり、手が腐っても現実逃避。
変態さがハンパない。
とあるシーンで、効果音に「かなりのこだわり」が感じられました。そんなところにこだわらなくていいけど、、、っていうシーンです。
どこであるかは・・・ご覧になって下さいませ。

パイ店のお兄さんも、本作では重要なことを伝えている役割です。
印象的だったのは、パイの店での一場面。
黒人夫婦が来店するが……という場面、ここは60年代に本当によくあったことなのでしょう。
しかし、似たようなことは2018年の今もなお、繰り返されている。

それはキャサリン・ピグロー監督の「デトロイト」でも語られていたことですね。
“本質”に目を向けるべきなのだと。
でなければ、本当の意味の自由と平和は無いのだ、とそんなメッセージを受け取った気がします。

イライザ(サリー・ホーキンス)は、心に傷を持ち孤独だけど、芯のある一本筋の通った女性を表現していて素晴らしかったです。
彼女の出演作は、今後も注目していきたいですね。

イライザは、セリフが無いので、手話と表情で演じています。
見ていて惹き込まれ、そしていつしか彼女の視点で見るようになっている自分に気付くのです。
彼女の心情が変化すると共に、ファッションが変わっていく表現も良かったですね。
これは、映画「旅情」におけるキャサリン・ヘップバーンを思い出します。

モノクロームの歌とダンスのシーンは、「美女と野獣」と、フレッド・アステア&ジンジャー・ロジャースのダンスのミックスか?と、思わずニヤけてしまった。

ユダヤ人のホフステトラー博士役のマイケル・スタールバーグも、雰囲気があってすごく良かったです。
善と悪の狭間で苦悩する姿。
彼は「君の名前で僕を呼んで」や「ペンタゴン・ペーパーズ」「メッセージ」「ドクター・ストレンジ」などなど、夢い作品に多数出演されているので、要チェックな名脇役です。

アナログの黒電話が「ジリリーーーン!!」と、ヒステリックに鳴り響くのは、まるでヒッチコック作品のような緊迫感。
ドキドキしますね・・・音の効果ですね。

激しい雨のシーン、夜。車のライト。
コートに、ハット。これはフレンチノワールか?

色~~~んな映画が走馬灯のようにフラッシュバックしながら、ワクワクして観ていました。
本当~に楽しかった!

美術がすごい


細部のディテールまでこだわっているのがよく分かり、思わず隅々まで見いってしまいます。

舞台は1962年。
人種差別と男尊女卑が露骨に激しかった時代。
戦後のイケイケムードのアメリカ。
レイモンド・ローウィの「口紅から機関車まで」を思い出します。
女性はグラマラスなハイヒールを履き、男たちは流れるような流線型の車に乗ることが時代のステータス。

・・・で、みんなスパスパとタバコを吸いまくっています。

家電も車も、何でもドンドン売れる時代。

何かデザインすれば売れていくという、いわゆる高度成長時代ですね。
その反面、虚飾と闇が深くなっていったのです。

しかしテレビがリモコン式だっけれど、あの時代にあったのでしょうか?
日本では確か、’70年代終わりごろだったような・・・。
SFっぽい演出なのでしょうか。
つまり、’60年代を背景としながら、近未来的要素をアナログっぽいデザインで挿し込んでくる。そういうこと?

色彩にも印象的なものが使われておりました。
青銅色、ブラウン。
アクセントカラーに赤。ヘルボーイの色でもありますね。

青銅色は深い水の色。
淡いミントグリーンは’60年代カラー。車に使われた色も。
パイや、ミントキャンディーにも青緑。

美術担当さんたち、大変だったろ~なぁ~
でもすっっごい楽しかったろうなぁ~~~という、セットのオンパレード。
美術賞、当然です。
見ているだけで楽しい気分にさせられる。
それにしてもこの映画は、メイキングが楽しそう!やはりDVD購入決定かな!

半魚人が監禁されている部屋の、重量感のある鉄製の扉の重厚なデザインや質感は、『パシフィック・リム』とそっくり。
そういえば『ヘル・ボーイ』でエイブがいた部屋も、あんな感じの雰囲気だったと思います。
確認したいな・・・。

音楽も選曲が絶妙で、まったりしたちょっと陰のあるオシャレ感。
例えばジャズでも、どことなくパリ風だったりとか、バンドネオンの響きも欧風。
つまり、ジャズといってもNYなどの米国調ではなくて、欧風なんですねえ。

そして・・・
圧巻のラストシーンでした。すばらしい。

アカデミー賞

4部門受賞
・作品賞 ギレルモ・デル・トロ&J・マイルズ・デイル
・監督賞 ギレルモ・デル・トロ
・作曲賞 アレクサンドル・デスプラ
・美術賞 プロダクション・デザイン:ポール・デナム・オースタベリー、セット・デコレーション:シェーン・ヴィア&ジェフ・メルヴィン

合計13部門ノミネート
・主演女優賞 サリー・ホーキンス
・助演男優賞 リチャード・ジェンキンス
・助演女優賞 オクタビア・スペンサー
・脚本賞 ギレルモ・デル・トロ
・編集賞 シドニー・ウリンズキー
・衣装デザイン賞 ルイス・セケイラ
・撮影賞 ダン・ローストセン
・音響編集賞 ネイサン・ロビタイール
・録音賞 ブラッド・ゾーアーン

本当におめでとうございます!
アカデミー賞授賞式生中継をWOWOWで見ていたのですが、コメンテーターでいらしていた町山智浩さん(デル・トロ監督の親友)が感極まっていらした姿が忘れられません。
私も、想いを同じくしておりました・・・。

次は「パシフィック・リム アップライジング」ですね。と~~~っても楽しみです!

大元の作品である、『大アマゾンの半魚人』(’54)ジャック・アーノルド
観てないので、観なくては……!と思いました。

私のPCの壁紙に、天野喜孝氏の描かれた半魚人とヒロインの画を使わせていただいております。
とっても美しいのです。
公式サイトに行くと、DLできます!


サウンドトラック

ヘルプ ~心がつなぐストーリー~ [Blu-ray]
エマ・ストーン (出演), ヴィオラ・デイヴィス (出演), テイト・テイラー (監督)
『ヘルプ』を▶Prime Videoで見る

大アマゾンの半魚人 (2D/3D) [Blu-ray]
リチャード・カールソン (出演), ジュリー・アダムス (出演), ジャック・アーノルド (監督)

シェイプ・オブ・ウォーター 混沌の時代に贈るおとぎ話

シェイプ・オブ・ウォーター (竹書房文庫)