映画『13/ザメッティ』の感想

2023年7月15日

素晴しいアートな世界。
しかし、ヴェネチア国際映画祭で新人監督賞を受賞しているとはいえ、これはものすごーくマニアックな作品だろう、と思います。
ですので、こういった独特の美学を理解し、信頼しあっている仲間的な友人でないと、すすめられませんね。
というか、勧めたくない(笑)。
この手の作品は、ひとりでしみじみと、誰にも邪魔されることなく、浸りたい、とそんな印象の作品でした。
そして密やかに大切に、自分だけのお気に入りリストに加えておくのです。


私はこういう、非常に感覚的に優れた作品が観れて、ほんとうに嬉しかったのです。
研ぎ澄まされた鋭利な刃物のような感性。
人の命をゲームにし、お金をかけるという、邪悪に満ち満ちた内容なのですが、監督はクールな視点で切っていき、そして美しい白と黒の映像美。
その感覚はヒッチコックを思わせる、なかなかに完成度の高いもので、美意識をガンガン刺激されました。
見た事があるようでいて、見た事がなかった。そんな新鮮な感じでしたね。

全編モノクロ作品です。
冒頭の木製の門と、一軒家が映し出されると、一瞬、「あれ・・・時代はいつなんだろう」という疑問が頭をよぎります。
すると、まるでその考えを見透かすように、ワーゲンのビートルがすっと現れるんですね~。それは、新型デザインのビートル。ああ、現代なのかと理解するわけです。

もちろんセリフは少なめで、目で語るハードボイルドの基本路線をきちんとおさえていて、そうそう、そうこなくちゃね~っと、もう嬉しくてしかたがないわけです。
バスルームのドアに貼ってあるのは「ヒトラー 最後の12日間」のチラシかな?とか、
あ~やっぱり足元はアディダスですか、とか、細かいディティールにも、いちいち反応させられてしまう、嬉しさ。

ロシアン・ルーレットのシーンは、多くのレビューにもあるようにあの「ディア・ハンター」を上まわる緊張感の演出がすごいです。
丸いライトに線が入ってるところとか、ほんとうにこの監督、演出が細やかで驚かされました。


いや~それにしても、主役はもちろんのことですが、次々と登場する脇役さんたちの、顔のいいことったら!!
かなり厳選して揃えたんだろうな~と思われます。
おじさんたち、ものすごくカッコイイんです。
このセンスの良さは、かなりのものだと思いました。

ハリウッドリメイク決定ということですが、絶対にこんな渋い雰囲気出せないだろうなと思います。
いやもう、出せるもんならやってみろ、みたいなね(笑)。
というか絶対無理だと思うのは、こうしたオリジナリティ溢れる作品が優れているのは、いろいろと面倒なモノ・・・とりわけ商業主義的な要素がないからこそなのであって、これを商売路線のハリウッド的な作りの方向へもっていったら、180度違う世界になってしまうと思うのですよ。
まあ、逆にそういう部分でのお楽しみをどうぞ、ということなのでしょうけれども。


さてこちらは、ほとんど登場しない女性のなかで、強烈な存在感を出しているオルガ・ルグラン。
映画は今回初めてとか。
コントラストの強い黒と白の空間で、彼女がふっとタバコに火をつける、ただそれだけで絵になってるって本当に素晴しいです。
‘40年代くらいの古いフランス映画の雰囲気なんですよね。
最高におしゃれな映画でした。
終わり方も、最高にクール。
最後の最後まで、隅々まで、クールでカッコイイ作品でした。
そしてまた、久しぶりにヒッチコックなんかを引っ張り出して観たくなったのでした。

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