父親たちの星条旗

2018年5月10日

制作:2006年アメリカ 132分
原題:Flags of Our Fathers

監督:クリント・イーストウッド
脚本:ウィリアム・ブロイレス・Jr、ポール・ハギス
原作:ジェームズ・ブラッドリー、ロン・パワーズ『硫黄島の星条旗』
音楽:クリント・イーストウッド
撮影:トム・スターン
編集:ジョエル・コックス

ジョン・“ドク”・ブラッドリー:ライアン・フィリップ(竹若拓磨)
レイニー・ギャグノン:ジェシー・ブラッドフォード(関智一)
アイラ・ヘイズ:アダム・ビーチ(志村知幸)
キース・ビーチ:ジョン・ベンジャミン・ヒッキー(仲野裕)
ハンク・ハンセン:ポール・ウォーカー(森川智之)
バド・ガーバー:ジョン・スラッテリー(小島敏彦)
マイク・ストランク:バリー・ペッパー(桐本琢也)
ラルフ・“イギー”・イグナトウスキー:ジェイミー・ベル(佐藤淳)
チャンドラー・ジョンソン大佐:ロバート・パトリック
デイヴ・セベランス大尉:ニール・マクドノー(有川博)
ポーリーン・ハーノイス:メラニー・リンスキー
ジェームズ・ブラッドリー:トム・マッカーシー(井上和彦)
アレクサンダー・ヴァンデグリフト司令官:クリス・バウアー
ベル・ブロック:ジュディス・アイヴィー
マデリン・イーヴリー:マイラ・ターリー
フランクリン・スースリー:ジョセフ・クロス
ハーロン・ブロック:ベンジャミン・ウォーカー



映画の感想ひとつで、その人の生活ぶり、人生感が見えてしまうことがたびたびある。

さていったい、どれほど沢山の戦争映画が作られてきたのかわからないけど、今更、戦争は悲惨だみたいな映画を作っても、もうやりつくされてしまった感があるし、そこで、かのイーストウッドとくれば、いったいどんな切り口で来るのか、と、そういう意味で結構期待していた。
私は「許されざる者」でみせてくれたような、イーストウッドの本質的な良心が好きだし、世界的に彼が認められているのもそうした誠意と本気のこもった作品づくりの姿勢からなのだろうと思う。
しかし、イーストウッド自身、かつてはヒーローを演じてきたわけで、もともと彼自身のイメージに「正義」が根付いている。
これって、今回の作品に投影されているなあと思った。
ガンマンや刑事を演じ、大きな銃をかっこよく構える姿なんかを披露し観客を魅了してきた彼にとっての「禊」のようにも思えた。
どの作品だったか忘れたが、彼がマカロニ・ウエスタンの主役を演じているときに、普段タバコを吸わないクリントは役柄上どうしてもタバコを吸わなければならないことに耐えられず、そのときの監督(たぶんレオーネかシーゲル)に「頼むからタバコだけは勘弁してくれ」と懇願したというエピソードがあった。
それは冷酷に却下されたようで、劇中ではいつでもくわえタバコだった。
彼は、ヒーローを演じることを楽しんでいなかったのかもしれないなと思った。
そんなイーストウッドの”作られたヒーロー像”を演じる姿が、今回の作品の主役たちにイメージが重なった。

かれこれ30年間くらい、ずっとイーストウッドを観てきた私。
古い友人は「まだ好きなのー?」などと失礼なことを言う(というかそういう質問は変だ)。
そうは言っても実は、スペース・カウボーイあたりからちょっとご無沙汰になってしまった。
こんな発言はすごく失礼なのだけども、観る前から大体の内容がわかってしまうというか、それでついつい劇場までは行かなくなってしまった。
出演作にしても、演技がワンパターンなので(爆)、ああ、いつも同じだな~という確認になってしまう(ほんとうにファンなのか)
正直言って、今回は彼が監督業に徹してくれたので、ほっとしている始末(苦笑)。
まあ、そんなこんなで、イーストウッド作品をかなり贔屓目に観る人は、日本人にも多いのではないかと思う。
だから今回のこの2部作プロジェクト、しかも2部は日本人の俳優をめいっぱい使ってイーストウッドが監督してくれるとなれば、かなりの話題性はあるかと思った。

英雄は常に、民衆が作り出している虚像にすぎない、人は善と悪を簡単に決め付けたがる。

そんなメッセージが伝わってくる。とても心に残った。
そしてやはりいい作品というのは、観て何日たっても、いろんなことが次から次へと頭に浮かんで、でまたいろんなことを考え、そして再度観に行きたくなってしまうのだ。

さて戦闘シーン、これは圧巻だった。
戦争映画は結構見慣れているのだが、この表現のしかたはさすがに凄いと思った。
派手なアクションを展開するものや、あるいはまた、ただリアリティを追求したものとはちょっと違うレベルの演出。
色を抜いたのが正解というか、実にいい。
それがかえってリアル感を増していたように思う。
そこにいる人間たちは、ことごとく完全に無視されているかのように、冷酷に、無情に、殺戮が行われていくという恐ろしい現実感が伝わってきた。
さらに、置き去りにされる者、見捨てられる者。
現場で戦う兵士たちはもはや人間ではなく、チェスの駒にしか過ぎないのだった。
ただこの作品では、戦闘シーンのほうよりも、人物描写のほうに重点が置かれている。
私は、お金のかかっていない白黒時代の戦争ものの、人間の内面を描いた映画が大好きなのだが、それらを想起させるような、人間味あふれる演出がとても良かった。

大作でありながら、あえてスターの起用を避けた点も、注目すべき点だった。
また、3人のキャラクターがはっきりしていて、事実なんだろうけれども、よくもまあ3人3様にきっちりと色分けのように性格が描かれているなあと思った。
多少、誇張はあるのだろうけど。
特に印象に強いのはネイティブ・インディアンの血が流れるアイラ(アダム・ビーチ)で、純粋で悩み深く、心を病んでいく様子が痛々しかった。
インディアンといえば、テレンス・マリックの「ニュー・ワールド」でネイティブ・アメリカンたちの大地に根ざした生きかたや精神世界が記憶に新しい。
ああいうスピリットを背景にしながら、意味のない殺戮という戦争に”アメリカ人として”参加しなければならなかった彼の心境はいかほどのものかと、想像するのも辛い。
やはりポール・ハギスの脚本とイーストウッドの演出の巧さなのだろう。
それに、時間軸が行ったりきたりするのに、わかりにくいところが全然ない。
言いたいことをスパッと表現して、あまりにもわかりやすくて、拍子抜けなくらいだ。

劇中で米大統領が、アイラに対して言う言葉が印象的だった。
「君こそ生粋のアメリカ人だ」って・・・。
なんだか皮肉に思えてしまったけど。

他にも「ウォーク・ザ・ライン」でホアキンの父役、「エルヴィス」ではジョナサンの父役だったロバート・パトリックが画面に出てきてなんか嬉しかったり、ジェイミー・ベルも重要な役を演じていて、キャスティングもなかなか良かった。

それから今回個人的に最も大注目だったのは、バリー・ペッパーで、「メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬」ですっごくいい演技してたのが気に入っていたので、カッコイイ軍曹役で出てきた時は大喜びしてしまった。
しかし、エンドロールで実際の人々の写真が出てくるのだけど、マイク・ストランク軍曹はご本人のほうがずっとハンサムだった(笑)!
主役3人は俳優の顔立ちとか雰囲気もぴったり合っていて、キャスティングにはこういう意味合いがあったのかと思って見ていた。

「アンタッチャブル」で有名な駅の階段が出てきて、つい最近デ・パルマ作品で熱くなっていただけに、なんだか妙に反応してしまった(笑)。
白い大理石の床、特徴のある手すりの装飾、エレベーター。美しいデザインだ。

戦争は、それで利益を得ようとする者たちが作り出しているものであることは既に明白であるが、それ以前に、我々ひとりひとりの生きかたや考え方こそが、結果的には様々な悲劇とつながっていくのだということだ。
私はこの作品をすでに2回観て、2回目は娘と行きましたが、こうした教科書にのっていない現実をまだ知らない人たちに理解してもらうためにも、
イーストウッド作品は解り易くてよいのではと思う。
イーストウッド、いい監督になったなあ。と、感慨深かった。
1部のほうはこれはこれで完結しているようにも思えるが、2部ではどんな語りを見せてくれるのだろうかと、楽しみ。
ただ、日本軍の場合はどうしても悲壮感漂う。
本当にそれしかないからね・・・。
予告編を観る限りでも、そういう印象だった。
渡邊謙の役は「ラスト・サムライ」の時の”最後の武士”のイメージと何となくかぶっていて、今や彼は、日本の武士道精神を世界にアピールする俳優の代表になったような感じだ。
(セリフが日本語なのだから、特に彼でなくても良かった気がするのだけど・・・。いえ、謙さんが上手なのは認めます。)

それにしてもこの作品でとりあげたようなプロパガンダは、なにも戦争に限ったことではないし、過去で終わっているものでもない。
実際に目の前で人が殺されることがないと、皆気にしないかもしれない。
でも、見えない戦争はごくあたりまえのように、日常的に行われている。

イーストウッドのメッセージは、あまりにもシンプルだ。
だけど、これほど大切なことを日常の中で忘れていくことこそが恐ろしいと思う。

ところで、スコット・イーストウッドがあまりにも可愛いので見てください。

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