ニーチェの馬

2023年7月15日

劇場公開時、行きたいなーと思っていた作品にもかかわらず、スケジュール的問題で行かれず、大変悔やんでおりました。
DVDを購入して自宅にての観賞となりました。

『倫敦から来た男』を以前観て、タル・ベーラ監督作品に魅了されました。

DVDジャケット表紙になっている後ろ姿は、水汲みにいく娘の姿。
なんとも素晴らしい画でありますね。
このシーンは、何度か繰り返されます。

・・・。

観終わってからしばらく、回転の遅い頭でぐるぐる考えました。

黙示録。

あまりにも過酷な生活。
なぜこのような土地に住んでいるのか?と、最初はそんなふうに考えて観ていたのだけれど、”黙示録”とするなら、もしかするとこれは我々人類の未来・・・かもしれないと思えてくるんですね。

淡々と繰り返される日常の中には、一筋の希望もない。
それどころか、ひとつ、またひとつと、日々何かが失われていく。

ほとんどセリフがないままに時間が過ぎていく・・・。
とにかく画面から目が離せなくなる。
特に何かスゴイことが起きているわけではないにもかかわらず。

父と娘と老馬がどうにかこうにか一日一日を過ごしていると。
唐突にどこからか訪問者が来るわけです。

いきなりやってきたわりと身なりの良い男(近所っぽいんだけど、どっから?って感じ)が突然やたら長々と語り、長いなーと思っていると。
話は途中でブッツリ終わらされて去っていく・・・。

観客は常に放り出されるんですよね。

考えろ、と。

何かの思い込みとか、既成概念を壊せ。
いや、この映画を観たら軽く壊されると思う。
思い込みほど間違った方向に導くものはないのではないか?
そんな風に思えてきます。

音楽は同じフレーズの数小節が、ひたすら繰り返されていくのです。

「神は死んだ」とニーチェが残した言葉が、ズシン…ズシン…と響いてくるような重苦しい感覚になる。

観終わった直後は確かにちょっと疲れたなあ。。と感じたのだけど、
その見事な映像美は明らかに私の中の創造力を活性化してくれた。

本作はタルベーラ監督としては最後の作品になるとの発表がされておりますが…
本当なら残念でしかたがありません。
こんな感性の人は2人といないでしょう。
もっと彼の作品を観ていきたいのに。
今後はどのような活動をされるのでしょうか。

哲学

Posted by miniaten