映画『アンナ・カレーニナ』の感想

作品情報

 時間:130分
 原題:Anna Karenina
 製作:2012年イギリス、フランス
 原作:『アンナ・カレーニナ』レフ・トルストイ
 監督:ジョー・ライト
 脚本:トム・ストッパード
 撮影:シェイマス・マクガーヴェイ
 衣装デザイン:ジャクリーヌ・デュラン →アカデミー賞受賞!
 音楽:ダリオ・マリアネッリ
 
 キャスト:
キーラ・ナイトレイ
ジュード・ロウ
アーロン・テイラー=ジョンソン
ケリー・マクドナルド
マシュー・マクファディン

告編

 

絢爛豪華な昼メロ

オペラでもバレエでも、もうほとんどメロドラマって感じの悲恋モノは定番になっているので、使い古された感があるとはいえ、それも慣れっこです。
そしてこういった古典の悲恋物語は、論じるようなこともない今の時代にあえてこれなのか?と、逆に気になってしまいました。
ベルばらに象徴されるような、少女マンガetc.のメロドラマの元ネタって、全てここからか-?と思った次第。
そういうわけだからこの話、ふつうに綺麗な映画として作ってしまっては目新しさに欠ける。
そこでこのような大胆不敵ともいえる演出法をとったのではないかとも思いました。
しかも高感度ハイセンスなジョー・ライト監督ですから、それはそれはもう見事に流れるように美しく華麗にシーンが展開していきます。

豪華絢爛な舞台を観に行ってきたような気分でした。
オペラや、ミュージカルや、バレエをうまくミックスした、舞台のような演出。
背景がセットを動かすようにスライドして変化したり、黒子も映ります。お掃除している人もいたり。エキストラが舞台装置を動かしているのです。屋根裏のような舞台裏のようなセットも登場します。
登場人物の動きも、何かしら装飾や誇張がされていて、楽しいのです。
椅子に座る動作もバレエ的だったり。

そしてまた、それらを活かし自然に魅せるカメラワーク。
ジョー・ライト監督の画作りは今回、印象派絵画等をモチーフにしているなと思いました。
そっくりシーンが多数あります。
モネの「日傘を差す女」や、ミレーの「落穂ひろい」などなど。
ライティングや、色彩感、空気感、雰囲気。とても美しいです。

圧巻だったのはやはり、舞踏会のシーンですね。
ここに、この映画の魅力の全てが凝縮されている感じです。もう何度でも観たいくらい素晴らしいです!夢のようにひたすら美しく、音楽に酔いしれ、くるくると舞う美しいドレス・・・たまりません。
不思議な動きの振り付けも、古典的なダンスとは違っていて、刺激的、そして官能的。素敵でした。
振り付けはシディ・ラルビ・シェルカウイです。映画を観に行く前に、バレエ友のBさんに教えていただきました。「アポクリフ」観てみたいなあ。

アカデミー賞受賞!思わず見惚れる衣装デザイン


衣装、美術、ただただ見事です。美麗でしかもしっかり現代風にアレンジ、洗練されていて。
ロシアァァァ~~~~~……って感じですね。
“豪華で優雅で切ない”ロシアにどっぷり浸れます。
こういった古典ロシアの世界って大好きなので、場面が変わるたびにワクワクしました。
凍った汽車とか駅のシーンとか、広大な雪景色とか!

キーラ・ナイトレイ演じるアンナ・カレーニナは、「La traviata(ラ・トラヴィアータ)=堕落した女」を思わせますね。

ヴロンスキーを演じたアーロン・テイラー・ジョンソン。
キラッ☆キラッ☆ですね~☆
美しいですね~。これぞ神の御業。思わず背景に薔薇とキラキラを描き加えたいです(笑)。若さだけでなく、これで恋に落ちなかったらおかしいでしょう、という説得力のある人物でした。
淡いブルーグレーの瞳に金髪と衣装がよくお似合いでした。
軍服のヴァリエーションがいくつかあり、どれも素敵で、着替えて登場するたびに見とれていました。

見終わってからしみじみと、沁み入るような余韻を残す演技が素晴らしかったジュード・ロウに感動していました。手紙を破り、それが雪みたいに舞うシーン、好きでした。
やはりあの瞳でしょうか、最後の表情が何とも言えません。
映画友のMさんもすごく感動したと語っていて嬉しかったです。
こんないい人を裏切るとは、アンナは何と罪深いのでしょう、と思わせる人物像に作られているんですね。

結婚でわかる人生で本当に大切なもの


「これが愛ね……!」というアンナの台詞があって、予告編を観た時には思わずプッと笑ってしまったのですが、じっくり全体を通して観ると、それはアンナの愚かしさであったと気づきました。
トルストイは、2つのカップルの愛と結婚のかたちを対比させて、真の愛や結婚、人の幸福について描きたかったんですね。
しかし、単に人の心というだけでなく、19世紀ロシア社交界のしきたりのなかで人間性を失っていく人達と、農場で汗を流し草の上で休み理屈抜きの自然体で暮らす人達との対比。

そして、とっても幸せってわけではないけれど、まあ妥協して暮らしている……というようなアンナの兄夫婦の描き方も面白かったです。

貴族社会から離れ、田舎の農場主と結婚するキティは、アンナと対照的に描かれています。
アンナの(自分勝手な)悲劇的運命とは真逆で、幸福な家庭を築いていきます。

キティ役のアリシア・ヴィキャンデル、とっても可愛いと評判になってますが、「ロイヤル・アフェア」で主役やっていますね。今度はアンナみたいな立場になるのかなーと想像しているのですが。またまた豪華なお衣装が楽しみです。

主役の美麗さに目を奪われてしまいますが、実はこちらの2人が重要なのでした。

ドーナル・グリーソンは「ハリー・ポッター」シリーズでロンの兄ビル・ウィーズリー役でした。
今回は演技派な部分を見せてくれ、とても良かったです。

朝もやの中で佇むところ、まるで絵画みたいだった。
「分かったんだ!」と言って勤めから帰ってきた夫に、「何が分かったの?」と穏やかに問いかける妻。
しかし、抱き上げた赤ん坊を見て、もう何も言えなくなるのです。
口に出した瞬間、それは途端に安っぽくなってしまうからか、それともどこかへ消えてなくなってしまいそうだからでしょうか。言葉を失う瞬間。

ロシア貴族といえば短調のワルツ

まるで、ゾーエトロープやマトリョーシカのように……。

クラクラするようなロマンチックでそして悲しげな短調のワルツが頭の中をクルクルクルクル・・・エンドレスで回り続けています~
音楽担当は、大好きなダリオ・マリアネッリ。サントラ聴きまくってます。
今度は『カルテット!』も楽しみです。

過去の『アンナ・カレーニナ』ではチャイコフスキーの曲をたくさん使ったものもあるようで、別ヴァージョンの映画作品も、観てみたいなと思いました。