麦の穂をゆらす風
原題: The Wind That Shakes the Barley
監督 ケン・ローチ
脚本 ポール・ラヴァーティ
音楽 ジョージ・フェントン
撮影 バリー・アクロイド
編集 ジョナサン・モリス
上映時間 126分
製作国 イギリスの旗 イギリス
アイルランドの旗 アイルランド
ドイツの旗 ドイツ
イタリアの旗 イタリア
スペインの旗 スペイン
デミアン・オドノヴァン – キリアン・マーフィー(内田夕夜)
テディ・オドノヴァン – ポードリック・ディレーニー(大黒和広)
ダン – リアム・カニンガム(浦山迅)
シネード・ニ・スーラウォーン – オーラ・フィッツジェラルド(山田里奈)
もう一度観てから、と思いながらどうにも時間がとれず、日がたってしまったのでとりあえず感想を書いておきます。
きっと、必ずまた行くと思うのですが。
いや~~~もう、ほんとにほんとにほんとにほんとに(また淀川さんが降臨か)良かった~。
でも、ただ感動しました!なんて言いたくないのです。
「父親たちの星条旗」や、「ワールドトレードセンター」と似ていると思ったのは、その作品作りの根底にある、普遍性かもしれない。
今だから、観るべき価値のある作品を観た、という印象でした。
戦争ものによくありがちな、友情とか団結とか、愛国心とか、家族愛とか、とにかくそういったいろんなことは今回の作品ではほとんど取っ払われていて、もっともっと奥の深い部分、人間の尊厳、高潔さ。
そんなゆるぎない根源的なものを冷静な視点で語った作品でした。
そして、とってもエレガントだなと思いました。
監督さんのセンスの良さなのかもしれません。
カンヌで認められた作品だ、あるいは認められなかったからといって、世間はそれですぐに大騒ぎをするのだけど、どうも私は首をかしげることも多いのです。
だけど、今回のこの作品にパルムドールというのは、たぶん、人々の注目を集めさせることが意図されたのかもしれないと思いました。ひとつには。
それよりもなによりも、作品としての完成度が素晴らしく高くって、映像、脚本、美術、衣装、音楽、俳優たちと、すべてに満足させられるのです。
歌が素晴しくよいです。
私たちの生活はいかに”きれいごと”かということを、いっそ、死ぬほど思い知ったほうが良いのだと思いますね。
そうすれば、ただ”やりすごす毎日”がいかに罪悪か理解できるでしょう。
さらに、与えられた命を放棄したりなどは、本末転倒なのです。
せっかくもらったこの命、無駄に生きるなよ、と言われてるみたいで、まだまだ、自分はやらなきゃいけないこと、やれること、あるなあと思い、心に刻み込みました。
ただ残酷だとか、切ないだとか、悲しいだとか・・・
そんな言葉は全てが陳腐な偽善者の言葉になってしまいそうです。
これは、単なる反暴力とか、反戦争とかっていう、そんな単純な物語ではないんですね。
暴力は狂気であり、絶望という結果しか生まない、非生産的行為であると、なぜそんな馬鹿なことを繰り返さなければならないのか。。
テロがなぜ存在し、そしてなくならないのかという理由。
利害関係がからんでくることが、さらなる悲劇を生むのでした。
内乱の悲劇を、兄弟の対立によって表現していました。
この物語は、世界のあちこちでたった今でも行われている紛争、殺戮のことでもあり、決して過去のことではないのだと。
主人公デミアン(キリアン)の苦悩と、高潔さに心打たれます。
キリアン・マーフィは、この映画の舞台となったコーク出身で、実際に祖父を亡くしているんですね。
非常にリアルに現実を受け止めて生活していたということですね。
出演者もそれぞれアイルランド出身がほとんどで、今でも生々しく残る、暴力の残したものを、身近に感じて暮らしていた人たちです。
派手なアクションも、戦闘シーンもほとんどないのに、生々しい現実感が漂い、静かに重苦しく、悲劇は描かれていくのです。
映像もすごく綺麗で、セリフのやりとりとカメラの回し方がすっごくいい感覚で、あれ、この撮り方は・・・?と思ったらやはり「ユナイテッド93」と同じカメラマンのバリー・エイクロイドでした。
それに衣装が「プルートで朝食を」と同じ、イーマー・ニー・ウィルドニーなのですが、すごく良かった!!!
まだ機械化が進んでいない時代の、手作り感のあるざっくりした風合いの生地のジャケットや帽子、着古した雰囲気もすてきでした。
その人間的な温かさの情緒あふれる衣装には魅入ってしまいました。
そして、そんな服を着て、本来は日々大地の恵みと命に感動と感謝の念を抱きつつ、愛情豊かに暮らしているはずの、人間味溢れる人々。
そんな彼らが銃を持ち、戦い、人を殺さなければならないという状況に巻き込まれていってしまうのです。そう、巻き込まれる、という表現があっているのかもしれない。
彼らが意図したわけではないのだから。
ストーリーは残酷ではありますが、かなり美的感覚も刺激されます。
お兄さん役の人もハンサムで素敵だったし、脇役の男の子や、あと、ダン役のおじさまも素敵。
すごく印象に残ったのは、キリアンの彼女役の子。
痩せてて繊細な雰囲気なのに、強い意志を感じさせる人で、とてもよかった。
とにかくこの作品、私は非常に気に入りました。
今後「今まで心に残った作品は?」って聞かれたら、絶対ベスト10には入るなというくらい上質です。