映画『クララ・シューマン 愛の協奏曲』の感想

作品情報

時間:107分
原題:Geliebte Clara
製作:2008年フランス、ドイツ、ハンガリー
監督:ヘルマ・サンダース=ブラームス
脚本:ヘルマ・サンダース=ブラームス、 コロ・タヴェルニエ、 ニコル・リセ・ベルンエイム
撮影:ユルゲン・ユルゲス
衣装デザイン:ジェルジ・ソカッチ
音楽:クララ・シューマン、 ヨハネス・ブラームス、 ロベルト・シューマン

キャスト:
クララ・シューマン:マルティナ・ゲデック
ロベルト・シューマン:パスカル・グレゴリー
ヨハネス・ブラームス:マリック・ジディ

 

予告編

 

◆あらすじ◆

19世紀半ば、「子供の情景」「トロイメライ」など後世に残る数々の名曲を輩出した天才作曲家ロベルト・シューマン(P.グレゴリー)の妻クララ(M.ゲデック)は、ピアニストとしてヨーロッパツアーを回りながら、妻として、7人の子供の母として、多忙な日々を送っていた。

そんなとき、彼女の前に若き新進作曲家ヨハネス・ブラームス(M.ジディ)が現われる。明るく陽気なヨハネスは、シューマン家の子供たちの人気者となる。

そしてシューマン家とヨハネスの奇妙な同居生活が始まる。常日頃からクララへの敬愛を隠すことのないヨハネス。日常が多忙と困難を極めるクララにとって、ブラームスは癒しの存在であった。

また同時に、体調不良と作曲の仕事に悩めるロベルトにとっても、ヨハネスは唯一の芸術的理解者となっていく。

ロベルト・シューマンとヨハネス・ブラームス。世紀を代表する2大作曲家に愛された女性クララの、波乱に満ちた愛と芸術家としての日々を描く。

 

愛と音楽の物語

本作の監督は、ブラームス家の正統な末裔にあたり、80’年代以降のニュー・ジャーマン・シネマを代表する名匠ヘルマ・サンダース=ブラームス。これまでタブーとされてきたクララとヨハネスの関係にも、肉親ならではの大胆な語り口で表現されていて、本国ドイツでも反響を巻き起こしました。

いや~それにしても、ブラームス家の方が現代で映画監督をされているとは、驚きですし、作品が観賞できるというのもありがたいものです。

ただ、本作は史実と異なりフィクションであるという意見も聞きましたので、当時の音楽家たちの生活を垣間見るといった、雰囲気を楽しむ映画としての見方が良いのかもしれません。

役者さんたちそれぞれの演技は秀逸であり、彼らの存在感は、作品を大いに盛り上げていると思いました。


当たり前の話ですけど、当時はなにもかもアナログなので、楽譜は手書きだし、何かと時間がかかるし体力も精神力も必要。想像を絶するほど大変だったと思います。
映画『アマデウス』でもモーツァルトが死にそうになりながら曲を書いていたけど、なんであんなに具合が悪いのに作品が作れるのか謎すぎる。ほとんど精神力という感じだけど、無理があるから命を削っていくんですね……。

本作のシューマンも、P.グレゴリー俳優のキレキレな演技によって、超越感漂いまくり。

めちゃくちゃ存在感あります。登場シーンから、独特な雰囲気でインパクトあります。
そうこうしつつ奥さんのクララは妊娠、出産するしで、なんかもう家の中がカオス。大丈夫かこの家…。

まー、そういうカオスな家庭に、才能と美貌と太陽のように明るいブラームスがやってきたわけで。まさに光の天使。

さらに、ブラームスとクララとのプラトニックな関係がすごい。
ブラームスは約束通り、クララが1896年に亡くなった後、肝臓癌が急速に悪化し、ほぼ一年後に逝去したそうです(63歳)。そういうことってあるんですね……。生きる意味がクララだったのかしら。

様々な側面から、ドイツ的なものをすごく感じる映画でした。ドイツ大好きな私としては、ワクワクしっぱなし。
ドイツ語だしドイツ映画なんだから当たり前っていやあ当たり前なんですが、ちょっとした場面でのドイツっぽさにツボに来てしまって、その都度、ほっこりしていましたね~。
オケで練習前にビールで乾杯したりとか。(しかもジョッキで黒ビールw)


ピアノ演奏で名声を得たクララですが、指揮をしようとすると大ブーイング。男尊女卑です。女性が指揮者はできなかった時代なんですね・・・。いかに才能があっても、それを活かせないなんて、残酷なことです。

しかしピアニストなら女性OKで、指揮者はNGとか、その線引きも、今となっては意味不明ですよね。

それにしても、シューマンの謎の病気が気になりましたけど、もしかしてアスペルガー症候群だったのでは?と。
遺伝的にそういう資質を持っていると気づかないで生活していて二次障害を起こすし、ほとんどまともに飲食していないようだったので、それで余計に悪くなったのではという感じが漂っていました。
とにかく作曲しなければ!という状況に、常に自分自身を追い詰めすぎていました。
お酒かアヘンチンキしか飲んでなかった感じでしたね…。

マルティナ・ゲデックさん、大好きなんですよね~。

最初に彼女を見たのは確か「マーサの幸せレシピ」でしたね~。ハリウッド版のリメイクも楽しめたけど、やっぱりオリジナルがいいです♪

「素粒子」「善き人のためのソナタ」「バーダー・マインホフ」と、名作に出演されており、そのどれも、彼女の個性が光っております。

クララがすごい!!!
色々出来すぎな奥さんです。
健康面でも精神面でも何かと手のかかる夫を支え、愚痴もこぼさず、夫の代わりに指揮をし、ピアノリサイタルのために旅行し、子供の面倒もみる。

こちらがご本人の写真。ややお疲れ気味のように見えます。

こちらは御結婚前の肖像画。美しいお方ですね~✨

 

私も描いてみました。

活き活きと生命力あふれるクララです。

 

そして、こちらは、ブラームス役のマリック・ジディ。

イケメンです。
明るく、そして、とても誠実なブラームス役がよく似合っていました。

クララだけでなく、ブラームスがいなかったらやっていけなかったんじゃないか?という位、シューマン家にとって重要な存在だったと思います。

ブラームスはクララより14歳年下。

 

シューマンの生い立ち

シューマンは出版業を営んでいた家に生まれ、7歳のときにベートーヴェンの交響曲を聴いて感動したそうです。
父はシューマンの才能を認め、高価なシュトライヒャーのピアノを買ってくれたとか。
幼い頃から父の出版編集の仕事を手伝いながら、文学書を読みあさり、詩や戯曲を書いていたというので、才能豊かな人だったんですね。
10歳でギムナジウム(寮制中高一貫校)へ入学。15歳のときにはドイツ文学サークルへ入り、リーダー的存在として活躍。
その後、母と後見人の勧めでライプツィヒ大学の法科へ進学したものの、冷徹な法学は好きになれないことや、ライプツィヒ周辺は都会すぎたため、ピアノを入手し、学生仲間の中から弦楽器奏者を見つけて、室内楽の演奏に熱中するように。
そんな中、とある音楽会で怖いピアノ教師のヴィークとその娘クララ(当時9歳)に出会った。
早速ヴィークにレッスンを申し込むと承諾され、住み込みで学ぶことに。
亡き父と違い音楽に没頭することに反対していた母が、有名な先生であるヴィークに意見を求めたところ、立派なピアニストにすると言われ、渋々承諾。六ヶ月の仮採用でどうなるか考えるということになり、半年後にヴィーク先生は「彼を無理やり法律家にするのは愚かだ」と諭したという。
この時シューマン20歳。

住み込みレッスン時代、シューマンとクララは兄と妹のように仲が良かったのですが、シューマンがとある女子と失恋した後、クララが年頃になったこともあり、二人は急接近。

ヴィーク先生が「許さん!」と二人を引き離したのに、シューマンは母が亡くなり余計にクララへ依存するように。

怒り心頭のヴィークに対して、離婚していたクララの母を訪ねてベルリンへ行き、イェーナ大学の学位を取り、弁護士に訴訟手続を依頼。シューマンすごいね!?やればできるんだ!!いや、ここで体力を使い果たしたのかもしれない。

ともあれヴィークの妨害工作をかわしてやっと結婚を許可する判決をもらい、二人は結婚式を挙げた。ここには知り合ったばかりのリストも来ていたとか。

 

【シューマンと家庭を支えるクララにのしかかる問題】

今回の映画では全く触れられていませんでしたが、シューマンとクララは幼い頃から日記をつけていて、結婚すると一つの日記を共有し、毎週日曜日に一週間分を朗読して、反省したりコメントをしたりしていたという逸話があります。

また、シューマンの収入だけでは生活費が足りなかったため、クララは演奏旅行の回数を増やして頑張っていたそうです。 シューマンも一緒に行ったりしていたのですが、クララの方が既にピアニストとして名高かったので、シューマン?誰それ?みたいな感じに。それもシューマンの心の負担になっていったんですねきっと。

そんなに有名なピアニストなのに、指揮をしようとしたら大ブーイング。ピアニストはOKなのに、なんで指揮者はダメなのか?当時の価値観の問題が、大きくのしかかるわけです。

 

シューマンの謎の症状と作曲の影響

家庭を維持する経済的な重荷を背負っているにもかかわらず、大作を書いても予想通りには収入にならなくて、どんどん神経がすり減っていったと。それによって筆が止まり気味になり、内省的になり、ひきこもりになってしまった。温泉へ行ったりもしたけど、効果はあまりなかったようです。

シューマンの症状は、幻聴、ひっきりなしの震え、高所や鋭い金属物などに対するさまざまな恐怖症…。幻聴のせいで作曲をしづらくなってしまった。しかしメンタル面の問題が大きく影響したのではないかと想像できます。体調悪いと、どうしてもモチベーション下がりますよね。そもそもこの症状の根本的原因は何だったのか・・・?当時の医学ではわからなかったという点も、シューマンにとって悲劇でした。

1849年の秋、お友達さんからの手紙で、デュッセルドルフの音楽監督に就任した、そこからの物語がこの映画で描かれていたわけですね。シューマンのヒストリーを調べてから、どういう状況下だったのかが、やっと分かったのでした。今回の映画では説明不足な面が多かったですね。

シューマンは上記のような不健康な状態だったのでためらっていたけれど、ドレスデンの旧弊さに嫌気がさしていたクララは定職に就く機会を逃さないよう夫に勧め、家族とともにデュッセルドルフへ。
シューマン夫妻は歓迎を受けたそうで、管弦楽団と合唱団の指揮を担当し、シューマンが指揮した最初のコンサートは成功!
そのおかげか、ノッてきたシューマン先生は創作力も旺盛になり、チェロ協奏曲(作品129)と交響曲第3番『ライン』(作品97)は、シューマンのデュッセルドルフ時代を代表する作品となったのでした。
作中でも流れる『ライン』、とてもかっこよくてドイツらしい荘厳な交響曲でした。

 

公式サイト↓
映画『クララ・シューマン 愛の協奏曲』公式サイト (albatros-film.com)

ドイツ・ボンにあるシューマンの家
Robert Schumann Haus Bonn – Robert Schumann – Biographie – Werke – Clara Schumann – Gedenkzimmer – Musikbibliothek – Schumannfest (bonner-schumannfest.de)

ライプツィヒのシューマン旧宅↓
2021年 シューマン旧宅 – 行く前に!見どころをチェック – トリップアドバイザー (tripadvisor.jp)

クララ・シューマンに関する情報満載のサイトです。クラリストを募集中です。↓
クララ・シューマンのホームページ - A Plaza of Clara Schumann – (clara-schumann.net)

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私はマルティナ・ゲデックさん推しなので、出演作を少々ご紹介させていただきます♪
どの作品も素晴らしいので、ぜひともご覧になってみて下さい。

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