プロヴァンスの贈りもの

イギリス人というと、例えば「遠すぎた橋」の中で、戦場であるのにもかかわらず優雅なティータイムを強行したり、つい最近観た「パイレーツ・オブ・カリビアン」の中でベケット卿がやはり、戦場である海上でいかにも高価そうな陶器のティーセットでゆったりとティータイムをしていたり。
また、かつて私が上海に旅したときのこと。
ホテルのレストランで食事していると、隣の席の白人男性がナイフとフォークを使って食事しているのを目撃し、私は絶対にあの人はイギリス人なのではないかと思ったのでした。
長期滞在であったけどナイフ&フォークで食事する人を見たのはその一度だけでした。
ちょうど上海蟹の季節で、周りの客はみな、木づちでバキバキと蟹を叩き割っては手でワイルドにムシャムシャと食べていて、その男性の雰囲気とのギャップが興味深かった記憶があります。
自国の文化や慣習にすごく誇りを持っていて、たとえ外国だろうと最前線だろうと、そのことを守り続ける。
実に勝手ながらイギリスの方って、私の中でそんなイメージがあるわけです。
そんな英国人が、この作品ではプロヴァンスの土地になじんでいる様子がなんだかとても楽しいのです。

「プロヴァンスの贈りもの」は、原作未読でしたが、映画だけ観ても、この作品はとても上質によくできていて、非常に楽しかったです。
イギリス人の視点や、こういうセリフはイギリス人じゃないと言えないよね、という楽しさにあふれていました。
リドリー・スコット監督とラッセル・クロウといえば、言わずと知れた「グラディエーター」のコンビですね。
それに最近ではスコット監督は「キングダム・オブ・ヘブン」だし、重厚な歴史スペクタルがお得意な人です。
そのコンビがこのような軽~いタッチのラブコメを?とすごくびっくりして、それにチラシのラッセルのデレ~っとした笑顔を見てしまって、う~ん、どうしようか?と観る前はそれほど期待していませんでした。
起承転結がハッキリしていて実にわかりやすく、とってもハリウッド的でありながら、好感度高し、ですね。
品があって小気味のいいジョークを混ぜたセリフ、巧みな伏線のはりかた、回想シーンと現実を行きつ戻りつしながら人生の大切なものを考え取り戻していく主人公のマックス・スキナー。
音楽のオシャレで効果的な入れ方もいい感じでした。
ラッセル・クロウが大好きな自分としても、こういう無邪気な少年のようなラッセルが観れて嬉しかったです。
スコット監督が「ラッセルの中には、純真な少年の部分が残っているんだろうね」と語っていましたが、まさに、そのとおり、彼の中にはそういう部分が残っているし、きっとそれは彼自身の個性となっていて永遠に消えないのではないかと期待させてくれて、だから私はラッセルの笑顔の中にそれを見つけて嬉しくて、彼が好きなのかもしれません。
低音の声も素敵です。
「グラディエーター」「マスター&コマンダー」「シンデレラマン」と、戦う男のイメージが強いラッセルだけに、今回の役は意外性があって、しかも彼の中のやんちゃで純粋な個性を引き出す演技となっていて、スコット監督は鋭いなあと思いました。

スコット監督の映像美の素晴しさには参りました。
奥行きがあって、光のとらえかたが芸術的でほんとうに美しいし、そしてとても上質、上品で、また色彩感覚の良さも、大変勉強になりました。
演出の巧さにも感心しながら、テーブルコーディネートやインテリア、また庭の素敵なことといったら・・・。写真集にしてほしいです。

観ていると、なんとなく幸せ気分になりますね。
英国流のひねりの効いた笑いがたまらないです。
ツボはやっぱ「ラコステ」VS「フレッドペリー」の仏VS英テニスマッチでしょうか。
お行儀の悪いワンちゃんも可愛かった。
あと忘れてならないキャラ、ほとんどしゃべらないで笑わせてくれるおじいちゃんの存在は偉大です♪
「チャリーとチョコレート工場」のフレディ・ハイモアも可愛いし上手いですね~。

ラッセルのコメディ演技が最高に可愛いかったし、トム・ホランダーもすごく素敵。
声とか話し方、発音とか誇張気味なところも楽しかったです。
ほんとうにこの方、上手いなあ~とつくづく思いながら観ていました。
スーツや、帽子などの着こなしも決まっていて、ホレボレしてしまいました。
しかも、ラッセルと「親友」という役どころなわけで、もう私としては「オーブリー艦長」と「ベケット卿」の楽しいお友達関係♪に、思わずにやけてしまうのです。
ラッセルのボス(ゴッホの絵を大切にしているのですが・・)が、「ROME」のポンペイウスでした。わーお♪この方って「レイヤーケーキ」でダニエルに殺されてましたね。

気が強くて男たちのマドンナを演じたマリオン・コテイヤール は、「TAXI」でのコミカルな演技がかわいくて印象に残っているのですが、次回「エディット・ピアフ 愛の賛歌」で主役をやるのでとても楽しみにしています。とてもキュートな人です。

私がチェックしまくっていたのが、ラッセルの英国ファッションで、これが実に面白かったです。
はじめは、ロンドンのエリートビジネスマンらしくビシッとスーツで登場♪
でこれがまたものすごくカッコイイのです。
しかし!アルマーニと思しきスーツが泥水まみれになるところで、うわあー!と思うのに、さらにそれを手洗いしちゃって、とどめにサソリ退治に使われてしまうのでした。
真っ白なシャツにトマト汁がべっちゃりとついても気にしないマックス。あとでちゃんと自分で洗濯してるシーンが入るとこなんかいいですねえ。

で、プロヴァンスでのマックスは、くつろぎスタイルなわけですが、ヘンリー叔父さんのお古ファッションが面白くって素敵。楽しかったですよ~♪
フレッドペリーのポロシャツをペンキだらけにして、ニッコリ笑顔のマックスのやんちゃぶりにはやられますね~。
サイズのあっていないブカブカパンツの裾を折り曲げ、ネクタイをベルト代わりに。
ホームパーティでは、柄シャツになんとパジャマ!をジャケット代わり、ポケットチーフはちょっと怪しげな柄で、微妙な色あわせ。やるなあ・・・

彼女とデートという日は、ここ一番?のバリバリ英国調な縦ストライプ、胸にエンブレム付きジャケット。これって制服なんじゃ・・・。

あと、建築も要チェックです。プロヴァンスのシャトーやレストランも素敵だし、ロンドンのモダンな建築も見逃せません。
ロイズ・オブ・ロンドン(リチャード・ロジャース設計)とか。カッコイイ!

マックスは、ヘンリー叔父さんに教えてもらった人生哲学を使い、ロンドンで成功するけれど、再び訪れたプロヴァンスで、その使い方が間違っていたことに気がつくんですね。
このあたりの内容も興味深かったですね。
同じことを語っているのに、まるで違う解釈になってしまうという、そういうことってよくありますね。
それが人の人生を大きく狂わせることにもなりかねない、と、ふ~む、なかなかに深いものがあります。
そして、自分にとっての人生って、と本質に迫ってきた時に出会うべきパートナーにめぐり合うのだと思います。
出会ってから気付く、という表現がされることがあるけれど、やはり気付かなければ出会えないのでなないかと思うのでした。


おまけ。
なかなか素敵な人なのです~。
今後もとっても楽しみです。
次はどんな役なのかなー