映画『レ・ミゼラブル』の感想

作品情報

 時間:158分
 原題:Les Misérables
 製作:2012年イギリス
 原作:小説 ヴィクトル・ユゴー/ミュージカル アラン・ブーブリル&クロード=ミシェル・シェーンベルク
 監督:トム・フーパー
 脚本:ウィリアム・ニコルソン、アラン・ブーブリル、クロード=ミシェル・シェーンベルク、ハーバート・クレッツマー
 撮影:ダニー・コーエン
 衣装デザイン:パコ・デルガド
 音楽:クロード=ミシェル・シェーンベルク
 
 キャスト:
ヒュー・ジャックマン
ラッセル・クロウ
アン・ハサウェイ
アマンダ・サイフリッド
エディ・レッドメイン
ヘレナ・ボナム=カーター
サシャ・バロン・コーエン
アーロン・トヴェイト

予告編

お正月の大混雑の映画館、満席の大きなスクリーンで観たのですが、マナーの悪い人が多くて落ち着いて観れなかったので、疲れてしまいました。
そういうわけでしばらくたってから2回目を観てきました。やはり落ち着いて観ないと集中できなくて、楽しさも半減してしまいますね。
行く日にはじゅうぶん気をつけなくてはと思いました。

私は子供の頃に児童書で読んだだけでしたのでこれを機に岩波文庫の4巻セットを買いました。
4巻の4分の3まで読んでいた娘に、あとから色々解説してもらいましたが、それがなくても充分楽しめました。このあと私も読む予定です。

長い間世界中に親しまれてきたあまりにも有名な作品のミュージカル映画化ということだし、製作や脚本などのそうそうたるメンバーには驚かされました。そうとうな気合いの入ったプロジェクトだなあと思っておりましたが、全く期待を裏切らない素晴らしい作品に仕上がっていました。

台詞は歌によって表現され、壮大で優美な旋律にのせて物語が進んでいきます。
分厚い文庫本4冊の内容を158分に違和感なく詰め込んだ脚本や、文字では表現しきれないところが映像によって鮮明に目の前で展開されることにワクワクしました。
そしてやはりライブによる撮影は、感情が細やかにリアルに心に響いてきます。

それにしてもアップのシーンが多め。顔の表情からグーッと感情に入り込んでいく感じ。こういうのは舞台では味わえない、スクリーンならではのものですね。


配役はこれ以上ないほど、それぞれがピッタリでした。
皆さん本当にそのキャラクターになりきっているというより、そのものという感じでした。
特に、幼いコゼット役のイザベル・アレン、まるで挿し絵がそのまま実体化したようで驚きました。
もちろん、衣装やメイクの効果も素晴らしいしそれに何といってもトム・フーパー監督の手腕なのだろうなあと、スクリーンの中に展開されるあらゆるものの完成度の高さにワクワクし、驚き、泣いて、感動しまくっていました。

ヒュー・ジャックマンの声、きれいでよく響いてました。
以前オスカー受賞式でも歌って踊ってくれましたが、これほどじっくり彼の歌を聴いたのは初めてで、感激でした。
今回映画のために書き下ろされたという馬車の中でのバラード「Suddenly」、いつまでも心に響いています。
ぼろぼろの服を着ても、町長の控えめだけど良い身なりをしていても、その心の美しさが表れているようでした。


ガヴローシュかわいい。個人的な理由で、実は最も感情移入してしまうのがガヴローシュなんですよね。

衣装はどれもこれもいいなあ~と見とれてました。いつものように細かいディティール観察に忙しかったです。
可能な限り真似したくなってしまいますね。
そして、衣装によるその人物の過去や性格などがとてもよく表現されていて、面白く観ていました。
ファンティーヌのピンクの服(彼女の過去や性質などがよく表れていた)や、また、ジャベールの制服の変化、ジャン・ヴァルジャンの変化(彼の人生や心の変化も表れていた)、それからテナルディエの、古着と化した軍服を日常着にしているところなんか、特に面白かった。
服の色にも意味があるそうです。1着ずつ詳細な解説が聞きたいものです。


ラッセル・クロウ演じるジャベールがなんといっても最高でした。
ラッセル・クロウが歌っている……!!!というだけでもう最高なのに、地方警官の制服からパリの警視の制服など、キリッとした着こなしがこの上なく素敵でした!
潜入のため民間人の服装をしていても、どこか気品が漂っている感じも素敵。
ソロもたくさんあって、嬉しかった。他のキャストたちの綺麗な歌い方とはちょっと違い、パンチのきいたロックな雰囲気の歌い方がすごくかっこ良かったです。
やっぱり一番好きなキャラクターはジャベールですね。色々な意味ですごく気になる人物です。


公開前からサントラを聴いていたのですが、まずエディ・レッドメインの美声に驚きました。
お坊ちゃん育ちで時に情熱的な、夢想家のマリウスにぴったりでした。
今回は、大きなスクリーンに映った彼を観てしみじみと逸材だなあと思いました。
最初に彼を観たのは『グッド・シェパード』からだったかしら…?あの頃からいいなあと思って密かに応援し続けてきたのだけど、こんなにも活躍するようになるなんて。
そういえば『グッド・シェパード』の時、教会の聖歌隊で歌っているシーンがあったのを思い出しました。

アンジョルラスも良いですね。歌いっぷりや存在感が光っていて、印象に残りました。演じたアーロン・トヴェイトもエポニーヌ役のサマンサ・バークスもブロードウェイ出身の方だそうです。皆さん歌のレベル高いのも納得でした。

サシャ・バロン・コーエンとヘレナ・ボナム・カーターの酒場のシーンはまるで「スウィーニー・トッド」。楽しかった!


やはりアン・ハサウェイの印象は強く、熱演ぶりが高い評価となってますね。
母親が舞台女優のケイト・マッコーレーで、ファンティーヌを演じたこともあるそうで、彼女の人生にとってとても深い繋がりのある作品なのですね。

まさにファンティーヌがそこに居ました。
髪を切るシーンは、実際に劇中で切ったそうで、その後はハサウェイ自身の結婚式だったという話をあとから知りました。でも、短髪もまったく違和感がなくて、彼女は普段からオシャレで服の着こなしもセンス良いので、かえって可愛らしく思えました。


同じメロディを違う場面に効果的に使っていて、面白いです。
例えばジャン・ヴァルジャンの改心を決意するシーンの「Valjean’s Soliloquy」とジャベールの「Javert’s Suicide」が同じ。対照的なシーンなんですね。
ジャベールとジャン・ヴァルジャンが病室で歌う「The Confrontation」は別々の旋律が重なって、見事なハーモニーに聴き惚れてしまいました。

街のセットは、以前に観たオペラ「ラ・ボエーム」や「アンドレア・シェニエ」の舞台セットを思い出させ、映画作品でありながらも舞台を意識したかのようなデザインや演出を楽しく観ていました。
そのように舞台作品にオマージュを残しつつ、例えば冒頭の巨大な船のシーンや山や森などのシーンもあったり、映画にしかできないこともふんだんに盛り込まれていました。
逆に言えば舞台ものは、必然的に表現に限界があるわけだけど、その分観ているほうは想像力を使う部分が多くてそれがまた楽しいということもあるんですね。
映画はとにかくビジュアルでいつもは観れないものを観ることができ、想像の世界に連れて行ってくれる、そこが楽しみなのです。

革命後のフランス、貧しく苦悩し孤独な人々、変動する歴史…、と色々な要素がありますが、
これはジャン・ヴァルジャンという一人の男の、一生を描いた物語。

試写会でもないのに、真っ暗になった瞬間拍手が起こりました。

ラストシーン「民衆の歌」は本当に感動的。余韻が何日も続き、消えそうにないくらいです。

買っておいて未見だったDVD↓を引っ張りだしてきました。

1998年版の映画。
テナルディエ一家がほとんどカットされていたり、暴動の前にジャン・ヴァルジャンがコゼットに告白したりと、その他ちょっと表現が違う部分がありましたが、134分にうまくまとまっていました。
こちらもキャストがすごいです。リーアム・ニーソン、ジェフリー・ラッシュ。そして当時約19歳のクレア・デインズが可愛かった!
マリウスはハンス・マセソン。「タイタンの戦い」や「シャーロック・ホームズ」に出ていたイケメンさんです。こんなところに出ていたとは意外な発見でした。
でもやはり、今回の映画のキャストの方が更に合っているような気がしました。
こちらも、今回の映画も英語だったので、フランス語版も観てみたいです。
しかし、あのシーンで終わるとは……驚きました。
いやー、ジェフリー・ラッシュのジャベールが強烈でしたね。最後は忘れられない。

余談ですが、帰ってから、たまたまスカパーで「オペラ座の怪人」を放送していて、つい観てしまいました。(DVD持ってるのに…)
怪人とジャン・ヴァルジャンには共通する部分があって、何だか不思議なリンクでした。

これを書いている今は、ゴールデングローブ賞授賞式が終わり、次はオスカーがどうなるか?という状況。
ともあれ、ヒュー・ジャックマンとアン・ハサウェイはそれぞれGG賞受賞。そして作品賞も。
おめでとうございます!

オペラ『アンドレア・シェニエ』も、また観たくてたまらなくなりました。