渋さに浸る『クライマッチョ』感想

2022年3月26日

作品情報

時間:104分
原題:Cry Macho
製作:2021年アメリカ
監督:クリント・イーストウッド
脚本:ニック・シェンク、N・リチャード・ナッシュ
原作:N・リチャード・ナッシュ『クライ・マッチョ』
撮影:ベン・デイヴィス
音楽:マーク・マンシーナ

キャスト:
クリント・イーストウッド
エドゥアルド・ミネット
ドワイト・ヨアカム
フェルナンダ・ウレホラ
ナタリア・トラヴェン
オラシオ・ガルシア・ロハス
アナ・レイ

『クライマッチョ』予告編

クライマッチョあらすじ

アメリカ、テキサス。ロデオ界のスターだったマイク・マイロ(クリント・イーストウッド)は、落馬事故以来、孤独な一人暮らしだった。ある日、かつての雇い主であったハワード・ポルク(ドワイト・ヨーカム)から、依頼を受ける。それは、元妻に引き取られている息子ラフォ(エドゥアルド・ミネット)を、メキシコから連れてきてくれというものだった。
ラフォは、豪邸に住んでいるが毎日のように違う男を家に連れ込んでいる母の暮らしについていけず、闘鶏のマッチョという名前のニワトリと、ストリートで生活していた。
父もそばにおらず、母との関係も築けないラフォは大人に対する不信感を抱いており、マイクに対してもなかなか心を開かない。
マイクとラフォとニワトリの、メキシコからテキサスへの道のりは簡単ではなかった。
途中で世話になった田舎町の食堂の店主マルタ(ナタリア・トラヴェン)やその子供達、街の人々との交流などを通して、マイクとラフォとの関係も徐々に変化していく。

クライマッチョでの監督兼主演俳優イーストウッド

イーストウッドをリアルタイムでスクリーンで会えるのも、一体いつまでなのか分からないから、彼が出てるって聞けばとりあえず映画館行っておこう、と考えています。
リアルタイムでスクリーンで観ることって、なんかすごく貴重なことだし大切なことに思えてきますね。
それにしてもイーストウッド氏、もう何年も前から、「スクリーンで役を演じるのはこれが最後」と言い続けてるよね…
終わる終わる詐欺みたいになってはいる(苦笑)が、ファンとしては出てくれるんだったら全然OKなのです。どんどん出てほしいです。

いつまでも元気で上質な映画作品を撮り続けていて、本当に凄い人だなあと、心から尊敬します。
私のイーストウッドファン歴も、相当長い。もう何十年、というそれはそれは長い歴史になっているのです。
それこそ「ブロンコ・ビリー」とか「許されざる者」や「アウトロー」も公開時に劇場のスクリーンで観てましたね〜
古い過去作品も、TV放送で何度も観た。つまり私は、イーストウッド作品で観てないものはおそらく数本しかない。全部見たぞって言えないのが、ファンとしてどうかと思うので、今年以内に全部見ることを目標にしようかなと思う。と言っても見ていないのは本当に数えるほどしかない。
イーストウッドが91歳だなんて。まさかこんなに長い年月、彼のファンであり続けていることや、彼の作品をスクリーンで見続けていることにも我ながらしみじみと驚いています。

本作の紹介をしている映画サイトなどの記事で、あらすじに“誘拐”というキーワードが使われていることが多いのだけど、ちゃんと作品観てから記事を書いているのだろうか?と疑ってしまいますね。
“誘拐”ではない。です、はい。
それと主人公のマイクは、“家族と離散”という説明文も見かけたが、それも違うんだな。色々と間違っている。
おそらく、作品観た人が書いているわけじゃないから、適当なんだろうな…。
映画サイトの記事内容は、今後も信用しないことにしようと思いますね。

クライマッチョでイーストウッドが投影する自分自身

タイトルになっている“マッチョ”は、旅を共にするニワトリの名前ですが、この“マッチョ”というキーワードは、台詞の中に巧みに織り込まれています。
Machoというのはスペイン語で雄(オス)を意味する言葉で、強靭さ、逞しさ、勇敢さ、好戦性などを表しています。

「クライマッチョ」で語られるのは、見た目や、肩書きや、あるいはマイクの部屋に飾られた数々のトロフィーなどではない、人の本質的なことに迫ってくる物語でした。

イーストウッド自身がかつて「ダーティハリー」や「荒野の用心棒」などで演じていたヒーローとしての姿。胸がスカッとするような格好よさでした。
ただあれらのヒーロー像を、実は彼はすでに「許されざる者」で自ら破壊していましたね。
それから何十年と年月が流れ…
今こうして、91歳となった彼が体現している本当の男らしさ(マッチョ)とは?といったところがテーマなのではないだろうかと思うのでした。

劇中で重要な役を担当しているニワトリのマッチョは、闘鶏用として飼われていることもあって、とても勇敢で堂々としています。

本作におけるマッチョという表現は、男らしさというイメージにとどまるのではなくて、それは人としてどのように在るべきなのか、といった普遍的な問いかけを提示しているかのようでした。

クライマッチョの魅力的な脇役たち

「クライマッチョ」ではニワトリがとてもいい役回りを担当していた。というか本当にニワトリの存在感が素晴らしく、私は感動しました。
重要な場面でパッと登場するその様がコミカルであったりして、なんとも和むんですね。
あのニワトリ見ていて思い出すのが「ダーティファイター」における、クリントの相棒オランウータン。クライドという名前でしたね。
本当に懐かしさがこみ上げてきた。ただ「ダーティファイター」はイーストウッド監督作品ではなくて主演作なのだけど、あのように相棒に動物を使ったコミカルな演出が、とてもよく似ているなと思った。
とにかくニワトリが、実にいい働きをしているのです。
役者鶏は11羽もいて、戦い専門とか担当が分けられていたらしいです。
しかしニワトリが演技できるなんて、驚きました。

少年ラフォ役はなんと、オーディションで選ばれた新人。エドゥアルド・ミネット。まだ14歳。
馬は乗ったことがなく、撮影中に覚えて乗りこなしてしまったのだとか。実に将来有望な楽しみな少年です。

レストランを切り盛りしている未亡人の女性マルタ役を演じるのはナタリア・トラヴェン。メキシコで有名な女優さんです。彼女は、豊満な体やどっしりと肝の据わった落ち着きなど、どことなくその雰囲気がかたせ梨乃に似ているなあと思いながら観ていました。ドラマ「孤独のグルメ」でかたせ梨乃がドイツ料理店の店主を演じていたことがあって、その姿がマルタの雰囲気に近いものを感じてしまいました。
ただし、かたせさんの演じた店主はすごくクールでつっけんどんな対応でしたが(なんというかドイツぽいのだろうか?笑)、マルタはそうではなくて、やたら世話好きで優しくて、家に帰ったらこんなお母さんがいたらいいなあ〜と思うようなあったかーいイメージの女性でした。

ラフォの父親であり、マイクのかつての雇い主ハワード・ポルク役を演じたのはドワイト・ヨーカム。
彼はグラミー賞受賞歴もあるミュージシャン兼俳優で、とても雰囲気のある人です。
イーストウッドいわく「馬の扱いに馴れている感じがある」だそうです。なるほどなあ。

クライマッチョは40年間熟成されていた

この映画の企画は、なんと40年も前からあったということで、驚きました。
映画製作者であるアルバート・S・ラディが40年前にN・リチャード・ナッシュの原作を読んでイーストウッドに話を持ちかけたところ、自分が演じるにはまだ若すぎる、と判断したのだそうです。
そして2019年になってイーストウッドからラディ氏に「あの脚本はまだあるか?」と連絡が来た、といった経緯があったということです。
2人とも、長い間、この物語が頭から離れなかったということでした。
いやあ…なんとも凄い。まるで樽の中で熟成していくバーボンウイスキーのように、時の流れと共に、じわじわと、イーストウッドの中で育っていた作品だったんですねえ。

久しぶりに見せてくれたカウボーイ姿のイーストウッド。
老齢カウボーイといったそのいでたちは、なんだか「ローハイド」でデビューした彼が年老いていった、ありのままの姿というか、あまりにも自然体すぎて…馬に乗っている姿なんて、もう感動という域を超えていましたね。
そうそう、彼が馬に乗る姿は「許されざる者」以来なのだそうで、撮影現場でも、それはちょっとした事件並みのことであったようです。

それと、どこかは特定できなかったんですが、劇中使われた楽曲で、イーストウッドがピアノを担当していたところが数曲あったそうです。
うわー、やっぱり再度見てあれこれ確認しなくちゃですね〜。

クライマッチョは心温まる人間ドラマ

これは疑似家族の物語。
そして、愛のない家庭から逃げ出して行き場を失っている少年と、孤独な老齢カウボーイとの旅の話。
随所に、くすくすと笑わせてくれるコメディのセンスもよくて、メキシコからテキサスへ向かうアメリカの乾いているけどおおらかな大地を背景に、なんだかとっても心和む作品。肩の力がゆったりと抜けていていい感じ。とっても心地よい人間ドラマでした。

老齢カウボーイと闘鶏少年は、様々な人々との心温まる交流や、そして試練を乗り越えて、成長していくのです。家庭が崩壊していても、学校じゃなくても、人生にとって大切なことを学ぶ場は、存在しているし、何歳であっても人としての成長や可能性はあるってこと。
そして帰る場所があるのは良いことだ。

車を途中で止めて夜を過ごす時、屋外の地面にそのまま寝転んでいるイーストウッドの姿は、かつて「夕陽のガンマン」などの西部活劇で見せてくれたあのガンマンを思い出させてくれて、むやみに気持ちが高まってしまうのでした。

クライマッチョにおける細部へのこだわりを見逃さない

インテリアや登場するヴィンテージカー、それにちょっと懐かしい雰囲気のお店や素朴な小屋など、とてもなごむしいい感じだなあと思って眺めていたんだけど、小道具などはかなり本物感にこだわっていたようです。

衣装担当は1984年の「タイトロープ」以来40年ものイーストウッド作品に参加しているデボラ・ホッパー。
なんとも言えないさりげないこなれ感が漂っていて、特にイーストウッドの着用しているテンガロンハットが気になってしかたがありませんでした。
だって…なんだか、昔の彼の出演作であんな感じの帽子を被っていたような…、なんだかやけに懐かしい気がする、そしてイーストウッドの風貌と帽子の一体感ときたら、それはもう完璧でした。あのテンガロンハットは特製品で、イーストウッドが過去作品で着用していた帽子を一つ一つ研究しつくして作られた逸品なのだそうです。
デニムのジャケットも、えび茶色のシャツも、実は再利用したものだとか!これは再度見て、いろいろな細かいところをキッチリとチェックしなくちゃなあ!と思いました。
というわけで、製作の細部へのこだわりが素晴らしく、それが作品の奥行きを深めているのでした。

そんなこんなで、イーストウッド監督作品も「クライマッチョ」で40作目になりました!
41作目はどのような作品になるのでしょうか?楽しみです!!

『クライマッチョ』鑑賞記念に、イーストウッドを描きました。

関連作品

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