アメリカ副大統領の闇を描くブラックコメディ『バイス』

2022年1月30日

作品情報

 時間:132分
 原題:Vice
 製作:2018年アメリカ
 監督:アダム・マッケイ
 脚本:アダム・マッケイ
 撮影:グリーグ・フレイザー
 音楽:ニコラス・ブリテル
 
 キャスト:
クリスチャン・ベール(宮内敦士)
エイミー・アダムス(中村千絵)
スティーヴ・カレル(岩崎ひろし)
サム・ロックウェル(家中宏)
タイラー・ペリー(早川毅)
ジェシー・プレモンス

『バイス』予告編

『バイス』の見どころポイント

観る前からかなり期待してはいたのだけど、期待通り。実によくできてる!
とにかく演出がすごく上手い。
テンポが早く情報量が多いので、結構気合い入れていないと追いつかないくらい。パッパッと画面が素早く切り替わっていく。そして時間軸が行ったり来たりする。
9・11の当時~直後の様子と、チェイニーが成り上がる様子を交互に描いている。
実際のニュース映像なども混ざってきて、まるでドキュメンタリー映画のよう。しかし見せ方や編集が上手いので、観ていてラクだし、コメディタッチに仕上げてあるので非常に分かりやすくよく作られている。

何しろこのアダム・マッケイ監督は『俺たちニュースキャスター』とか『俺たちスーパー・ポリティシャン めざせ下院議員!』『ドント・ルック・アップ』などといったわりと社会政治系ネタを使ってくる。そういう一見シリアスになりがちな題材をギャグ化する名人なのだ。『アザー・ガイズ』もキレッキレのギャグセンスで、すっごく面白かった!
あと何と『Qアノンの正体(Q: Into the Storm)』の製作総指揮をつとめている。これには驚いた。
∪-NEXTで視聴可能。ナレーションが何と!井上和彦さん!

クリスチャン・ベイルの怪演

ブッシュ大統領を裏で操っていたチェイニー副大統領を、「ダークナイト」でバットマンを演じたあのクリスチャン・ベイルが演じている。これだけでもかなりの期待度。
大統領の黒幕、”ダースベイダー”とも呼ばれていたチェイニーを、さらに操っていたのが妻のリンなのだ!奥さんこわ~い!美人で才女なんだけども女だから、政治家になれない。それで夫にその夢を託す。エイミー・アダムスも、メイクでかなりそっくりに化けていたけど、彼女の本質的な可愛さが、奥さんの恐ろしさを和らげていたように思えた。

とにかくまずは、体重増量と高度な特殊メイクで見事に変身したクリスチャン・ベイルが見もの。
見れば見るほどベイルに見えなくなっていって、途中からベイルだってことを忘れてたかもしれない…

ジョージ・W・ブッシュ政権下で副大統領を務めたディック・チェイニー(左)と、クリスチャン・ベイル(右)の比較画像

ベイルはチェイニー役のために、なんと約20キロ増量したという。さらに髪を剃り、眉毛を脱色し…特殊メイクすること数時間。もはや原型をとどめていないほどチェイニーそっくり。

ベイルは「マシニスト」では激ヤセになり、その直後「ダークナイト」でいきなり筋肉ムキムキマッチョ体型になったりと、自由自在に体型を変えてしまう俳優。今回の画像を初めて見た時は、特殊メイクだけかと思いきや、やっぱり増量やってたのかー!と、驚いたのでした。
肉体改造を行なったのは、2017年4月から約半年間。同年10月に撮影開始をするために、パイをたくさん食べたり、ご飯1杯に15個の卵を入れて食べたりしたそうで、健康的に体重を増やせるよう、栄養士にマネジメントを頼んでいたということだが、そうはいっても”健康的”というのは無理があるのでは…。

『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』でオスカー受賞のゲイリー・オールドマンと電話で「チャーチルの時はどのくらい太った?」と聞いたそうだ。

ゲイリー「太ってない」
クリスチャン「なんだって?」

「増量した自分がバカみたいだよ!(映画の特殊メイクが)こんなに進歩していたのを知らなかったんだ」とヴァラエティ誌のインタビュー記事で語っていたそうだ(笑)
先に電話して聞くべきだったな…クリスチャン…
というか映画製作の現場にいながら、特殊メイクの進歩を知らないっていうのもどうなんだ?(苦笑)
役作りに没頭してしまうんですね~職人気質なんだな~

クリスチャン・ベール主演、アダム・マッケイ監督、ブラッド・ピット製作の『マネー・ショート 華麗なる大逆転』チームが再集結した最新作『バイス』。

本作は、第91回アカデミー賞でメイクアップ&ヘアスタイリング賞を受賞。
ゴールデン・グローブ賞のミュージカル・コメディ部門で主演男優賞を受賞。

クリスチャン・ベールの変身ぶりについて、特殊メイクを担当したグレッグ・キャノンのコメント

アダム・マッケイ監督は、「クリスチャン・ベイルは見事な肉体改造をしてくれた。でも、最終的に役を完成させたのはグレッグ・キャノンの特殊メイクだね。満足のいく出来になるまで、5カ月もかかったんだけど、すべてがハマった時は感動したよ。役作りを経たクリスチャンに特殊メイクが合ってて、チェイニーをマネて歩く姿には鳥肌がたった。演じてるのではなく、憑依してるようでね。その場の誰もが本人かと見間違うほどだった。気味が悪かったよ」と、その完成度に大満足の様子。
しかし監督までが気味悪がるレベルとは…ベイルはやはり凄い人です。

脇を固める絶妙な俳優陣

メス・デイモンことジェシー・プレモンスが、語り役としてチョイチョイ登場するのだが、「誰?」な感じで笑える。911後は兵士として戦場にまで行っていた。
いわゆる一人の米国民代表ということなのかなーと思いつつ見ていた……のだが!
さて、あとは観てのお楽しみとしておこう。あえて書かないでおく。


スティーヴ・カレルの演技は、相当な誇張があるけれども、相変わらずの切れ味の良い演技が素晴らしい。脇でやたら存在感あるので、妙に彼が気になる(苦笑)…。しかしそこは流石のベイル。主役ベイルの存在感はしっかり確立している。なので全体のバランスを崩すことなく、逆にカレルのケレン味の絶妙さによって主役をガッツリ支えている感じ。
家具に足をぶつけて「痛っ!!」となりながらセリフを続けるシーンがあったのだけど、それがもう絶妙に面白くって、かなりツボに来てしまった。あれはひょっとすると、マジでぶつけてたんじゃないのか?周囲もそれに気づきながら演技続けてたんじゃないのか?と想像してしまうと、ますます可笑しくてたまらなかった。


そっくりすぎるサム・ロックウェル。


おやっと思ったら美人ニュースキャスターがナオミ・ワッツだった。
怪しいレストランのギャルソン役にアルフレッド・モリーナ。レストランのシーンは実に分かりやすい説明だった!
この2人はカメオ出演らしく、クレジットされていなくて驚いた。

以前、オリバー・ストーン監督の「ブッシュ」を観ていたから、どんだけブッシュって人がダメ人間かってことは知っていた。
マイケル・ムーア監督の「華氏911」では、あの事件は本当におかしい、胡散臭い、と思っていた。
あの事件当時は、本当に毎日CNNニュースに登場するブッシュの会見や、NYCの街の人達の様子をTV中継で見ていた。空爆のニュースも。
何か強い違和感を感じつつ過ごしていたことを思い出す。戦争をなくすことのできない米国の闇を、肌で感じ取っていたものだった。
あれからだいぶ経って、「VICE」。こんな映画が作られるようになった、そして普通に大きな劇場公開になっている。
そして…
裏のニュースで知ったことだが、ブッシュは逮捕され裁判にかけられ有罪、絞首刑となったそうだ。
チェイニーも逃亡していたのを捕まって、2021年の新年は牢獄で迎えたとか。
いかにホワイトハウスがサイコパスの集まりになっていたかが、本作品を見ると分かる。
イギリスの政治ドラマを思い出す。毎日意味の分からない、辻褄合わせばかりやっていて、デスクで遊んでいるだけの高給官僚たち。さぞ高学歴なのだろうが、中身は空っぽだ。

しかしこの映画、演出もかなりイカしている。
まさか途中50分くらいのところでエンドロールが出るとは思わなかった(笑)
それからクラシックなBGMや、サブリミナル効果の使い方も面白い。
登場人物の顔をぼかしたり、時折ジェシーのナレーションも入っていることも相まって、ドキュメンタリーっぽくなっている。

ラストのオチは、最近の流行りなのか、自虐っぽいメタ的なネタを入れてくる。

エンドロールの、釣りに使うルアーがかなり面白かった。よく作ったな~

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「ブッシュ」
どんだけブッシュ政権がひどいかとか、パパの圧のもとに育った空っぽのジョージが虚しい。
こちらはジェフ・ブリッジスが素晴らしい演技を見せています。

「華氏911」

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Posted by miniaten