美しすぎる母

大好きなエディ・レッドメインがほとんど出っぱなしというのは、今までなかったので、これはかなり嬉しかったです。
他にも、父役にスティーヴィン・ディレイン、ウナクス・ウガルデ、ヒュー・ダンシーと、美形俳優が勢ぞろいです。



悲劇です。

「僕は気づいた・・・長い年月偽りの人生を生きていたことを」

トニー(エディ・レッドメイン)は、自分自身を見つけることができなかったんですね。


実に典型的ともいえる、ナルシストで支配的な母親と、繊細で母親から自立しようとするけれども結局はその支配から逃れることができずに精神を崩壊させていく息子という母子関係。
お互いに依存しあいながらも、息子は自由を奪われていることに気づきだすとその境遇と母親から逃れたいと思ったけれども、それはかなわず、結末は悲劇に。

こういう人達を観るにつけ、やはり人生の喜びは「仕事」だよなあ~としみじみ思うのです。
仕事、って言ってもね、ここで誤解してほしくないのは生まれてきて自分が担うべきものというか。
しかし、何もしないよりは何か社会性のある行動をするべきなんだと思う、トニー観ていて。

教育とか育児とか、または様々な指導などといったものはすべて、「その人自身」を見出していくことにあるのではないかと思います。
逆にいえば、その人自身を奪ったり否定したりあるいは支配したり、そういうことは決してするべきではないと思うわけです。
結局はお互いを追い詰めていくだけなんですね。
相手も自分も決して解放されないのでした。
監督のコメントにもありましたが、ナルシシズムって最終的に殺されること、なんでしょうか。

と、まあ、こういう映画っていろいろと考えさせられてしまうのですが、現代のギリシャ悲劇ともいえるほど、美しい上流階級の暮らしぶりを美しい役者さんたちやロケーションや衣装、そして映像によって実に芸術的に表現されており、その雰囲気にのまれていましたね、実際は。

重い内容とはうらはらに、ビジュアルセンスの良さにうっとりしていて(特にエディ・レッドメインね)、これでいいんだろうかと少々心配しつつ劇場を出ると、1階のロビーにパネル展示がしてありまして、そこに監督のコメントがありました。
エレガンスとバイオレンスの同居の部分を味わってほしい、みたいなことが書かれていて(正確には覚えてないですが)、私の感じていたことは間違いでなかったと安心したのでした。


ジュリアン・ムーアは、バーバラの2面性をよく表現していたと思います。
表面の華やかな美しさと、裏のダークな側面と。
ファッションも素晴らしくエレガントに着こなしていました。
衣装担当がガブリエラ・サラヴェッリなのですがもう一人、オートクチュール担当にディディエ・リュドさんがいて、ヴィンテージものの服や小物もかなり使われているようです。
ピンクのシャネル・スーツはビンテージなのかと思いきや、彼女のために、カール・ラガーフェルドがデザインしたものだそうです。
ピンクのスーツをあんなに妖艶に着こなすっていうのも彼女ならではでしょうか。
赤いスーツもすごく良かった。あの強烈な色にまったく負けてないところが凄いなあと思います。
負けるどころかキッチリ自分のものにしちゃってる。
で、そうかと思えば淡いグリーンやラベンダー色のやわらかい印象のドレスまでさりげなく着てて、いやはや、ジュリアンさんて今回あらためて凄い人だと思いました。
アクセサリーもいちいち気になりましたね。どれも本物の存在感でした。

エディ・レッドメインはその悲しげな表情とはかなげな印象の顔立ちがとてもよく役柄に合っていて、観ていて胸が苦しくなるほど、心の内側の叫びみたいなものをよく表現していました。
それにしても彼は悲劇的な役ばかりのような気がしますね。
似合うからいいんですけども。
悲劇的な運命が、彼の美しさをいっそう引き立てているようで。
彼のファッション七変化も楽しかったなあ~~。
ボーダーのシャツで可愛くフランス風してみたり、黒のシャツに白のパンツで上流おぼっちゃまの上品カジュアル、それに上質な茶色のスーツがまた素晴らしかった。
繊細そうな外見でありながら、あの強烈な個性のジュリアンさんの隣に立っていても(一見、ひょろ~っとね、笑)まったく負けてないですからね、これは只者じゃないですよね。
彼は美しいばかりでなく、演技とかそういうものを超えた素質を持っていますね。
どんな風に年を重ねていくのか楽しみな人です。
ちょっと別の雰囲気の彼も観てみたいなあと思うのでした。