ONCE ダブリンの街角で

とても癒し系な作品でした。
心温まる、ヒューマンなお話です。

冒頭のひったくりのエピソードに、いきなり泣かされてしまいました。
観る者をどういうふうに映画の中へと導入するか、というのは全体の構成の中でも非常に重要な部分だと思います。
まずは、ここでしっかりと心をつかまれてしまったわけですが、こういうつかまりかたは何とも心地良いですね。
冒頭で癒されてしまったら、このあとどうするの、って感じでちょっと心配してみたり。
とてもシンプルなところが良かったです。
余計な装飾などはとっぱらって、大切なことをストレートに表現している気がしました。

ダブリンといえば、コリン・ファレルとキリアン・マーフィの「ダブリン上等!」が好きなんですが、あの映画を観たときはダブリンって、すさんでて妙な人が住んでいる街なんだなー(笑)と思っていました。
でも、ちょっと気の抜けた登場人物たちと、イギリス調(ダブリン調か?)の辛口ギャグの効果で、すっかりなごんでしまいました。
今回の「once ダブリンの街角で」も、癒し系の登場人物たちのおかげでとても心温まるひとときでした。
そう、癒し系といっても、ゆるすぎないところが好き。
ゆるすぎると、かえって疲れてしまうのね。
適度にパンチきかせてくれないと。

主演の2人は男と女だけど恋愛感情らしきものを抱きながらも親友でありつづけ、お互いの真の理解者であったというところが印象に残りました。
「ブレイブワン」でも恋愛感情は前面に出ていなくて、それよりももっと深い部分でのつながり、深い友情の存在は、心をとても強くするなあと思いました。

お父さんもいい人だった。
息子を信じて、頑張れ、と支えになる素晴しい父親。
でもグレンが”本気”だったからこそ、応援してくれたのだと思う。
本気って、いつでも試されます。本気だから、まわりに人が集まってくる。
そして道がひらけていくんですね。
そんなふうにいい人づくし(笑)で、ぴゅーぴゅー北風が吹く外から帰って、家のドアを開けるとほわ~っと暖かい。
そんな感じの映画でした。

なんと!!主役のグレンはキリアン・マーフィが演ることに決まっていたとか。
キリアンが演じてもすごく良かったに違いありませんが、
ミュージシャンであるグレンが演じたことでよりリアルな雰囲気が出たのかもしれません。
・・・やはりダブリンといえばキリアンなのか(笑)。

主役の2人は実際にミュージシャンであるという点も、作品のリアルさをさらに濃くしていたのだと思います。
演技ではあるけれども、本当に自然体、彼ら自身のようでした。

まるでドキュメント映画のような自然な撮り方と、人物のリアルな表現がいいですね。
いかにも映画つくりました、という嘘っぽさがなくて良かったです。

ヒロインの、ツイードのメンズっぽいジャケットにレーヨンなんかの花柄スカートをあわせるコーディネートが良かった。
真似しようかなあ・・・と思案中。
彼女は演技をしたことがないと言いますから驚きました。
すごく自然に演技をしている感じでしたから。

あとついこの前、やはり移民と音楽の映画「ヴィットリオ広場のオーケストラ」も、観たのですが、こちらは完全にドキュメント作品でした。
本当に何もないところから立ち上げていく様子は興味深かったです。
少人数から始めて、どんどんメンバーが増えていって・・・すごく臨場感があって面白かった。
音楽という表現方法を通して、異なる人種の人たちがひとつになるという様子は、まさに地球には境界はなくて、ひとつの大きなかたまりなのだ、その塊の上で、皆が見えない手をつないで暮らしているんだなあと思えました。なんだかほっとさせられました。

両方とも、音楽的には私の得意でないジャンルなので、よくわかりませんが、いい音楽でした。