コレラの時代の愛
めずらしく原題どおりの邦題がついていて、いいですね。
さてちょっと風変わりなこのタイトルは、作者のガルシア・マルケスが物語を書き終えたあとに考えたそうです。
そして最後まで観ると、やっとその意味がよくわかることになっています。これがまた楽しい仕掛けですね。
2回観ました。とても美しいけれども甘すぎない世界が、気に入りました。
初めて観終わったときの印象。
「無限なのは死ではなく生なのだ」
この言葉がなんとも心に響きました。
この「領域」は、普通には通じない世界なのではないかと思いました。
実はあまり現実的ではないのかもしれませんが、なぜか強烈に信じられるような・・・その、永遠の想い、なのでした。
真実に出会ってしまった人は、
その後、どんなものに出会ったとしてもすべてが偽りでしかなくなってしまうのです。
それほどに高く、果てしなく深い領域の魂の話だと思いました。
心というより、魂の世界なのではと。
もしも人が、その領域を知ったなら、つまり、魂と魂の出会う瞬間を体験したならきっと、
絶対的に変えられない、他のものには置き換えられない確固たるものが
心に存在し続けるのではないだろうかと思うのです。
だからただ単純に「初恋を成就しました」みたいな、よくある単純な恋愛話とは完全に別物なのではと思うわけです。
解釈は人それぞれで良いとは思いつつ、隣でむやみやたらに泣いて鼻水すすっている女性には違和感を感じました。
この、ちょっと幻想的な香りも漂うラブ・ストーリーを盛り上げるのは
情緒的な雰囲気にあふれる19世紀後半から20世紀前半のラテンアメリカ。
クラクラしそうなほど熱くてむせかえるような南国の香りが、画面から漂ってきそう。
エキゾチックな優美さを見事に表現された作品で、監督の美意識の高さに感動しました。
「炎のゴブレット」のマイク・ニューウェル監督ですが、あの時は暗いダークな影の表現の美しさにうっとりしていましたね。
今回の作品にも、その色彩感や影のトーンの出し方などにセンスが感じられて大変すばらしかったです。
好きなシーンがたくさん、たくさんあるのですが・・・
特に、フロンティーノ・アリーサと、フェルミーナ・ダーサの出会いのシーンが素晴らしかったです。
ふと瞬間的に時間が止まるような感覚が、素敵でした。
観ていて、こちらも一瞬、息を止めてしまいました。
作品中では最も心に残る瞬間で、2回目の時はそのシーンを特に気をつけて観ました。
つい最近では「ノーカントリー」でキモ可愛い殺人鬼だったハビエル・バルデムは今回素晴らしく魅力的な男性を見事に演じていて、とても深みがあって、
もうそれはそれは大満足でした!
でもね、とても可愛いらしいウナクス君からハビエルさんに変わった瞬間はつい、プッ・・・と吹き出してしまいましたが(すみません・・)。
だからあの市場でのフェルミーナ・ダーサの反応が妙におかしくてたまりませんでした。
(詳細は書きませんが・・)
ヒロインのフェルミーナ・ダーサ役、ジョヴァンナ・メッツォジョルノの演技にも感動でした。
まだ若いのにすごく達者な人ですね。
フロンティーノの名前を聞いただけで心乱れ、正気を失いそうになる・・・という表情が特に素晴らしかったです。老いてからの演技にもびっくり。
最近の特殊メイクの完成度も手伝って、若い人が演じているという違和感がほとんど感じられませんでした。
フェルミーナの従姉イルデブランダのセリフが印象的です。
「愛がなくても幸せになれるのよ。愛は関係ないの」
その言葉に驚くフェルミーナですが、しかしその通りの人生を送ってしまうのです。
「恋に死ぬことは最高の栄誉だ」
と誇らしげに胸を差し出すときのウナクス・ウガルデの表情、素晴らしかったです。
本当にまぶしいくらいに輝いていました。
おでこから鼻にかけてのラインがハビエルさんに揃えて同じに作っているのでちょっと顔の雰囲気がいつもと違うのですが。
はじめは特殊メイクと気付かなかった私です。
それにしても最近の特殊メイクの技術には驚きです。
CGにしても、それと気付かせないように使うことが普通になってきているのが凄いと思います。
フナベル・ウルビーノ博士を演じたベンジャミン・ブラットも、クールな紳士っぷりが見事に似合っていて素敵でした。
そして、衣装には本当にやられっぱなし!まいってしまいました~!
レディたちの南国調貴婦人ドレスも素敵!
でもやはり私は、紳士ファッションに目を奪われっぱなしです。
リネンのジャケットやベスト、シルクハット、チェックのボウタイ・・・・・。しかし暑そう・・・。
特に成金風な派手めの、ヒロインの父の衣装が目を引きました!すっごくおしゃれ!!
チェックのベストに、別の柄のチェックのボウタイを合わせていたり、実際あの時代においてはあまり上品な組み合わせではないのだろうけれども、チェック×チェックの組み合わせは、今年のトレンドです♪父上は流行先取り、ってわけですね(笑)。
父役のジョン・レグイザモは先日「ハプニング」でも素敵なパパを演じていて、とっても印象に残っています。
ハプニングの時はソフトな印象の人でしたが、今回はちょっと下品なこってり風味の味付けで、それがまた上手い!歩き方とかね、とっても良かったです♪
こちらは老年時代のフロンティーノ・アリーサ。
ハビエルさんすごく素敵でした!
実際に彼がおじいさんになったときが楽しみです。
赤い薔薇の演出も素敵でした。
本当にこの作品、年を重ねることの素晴らしさを教えてくれました。
原作も読みましたが、とても読みやすい見事な文の運び方。
それになんとまあ魅惑的な表現力でしょう。
エキゾチックな雰囲気のざわざわとした街の中へ、いきなり連れて行かれます。
自然に引き込まれているんですよね。
電車の中で読んでいても、本の中へ入りこんで周囲の音などが消えていくような感じがします。
ワクワクして、そして胸が熱くなるのです!凄いです。
ろくに読めないくせに、英語版のほうも購入してしまいました。
気になる表現のところは特に、翻訳と読み比べてみたりして楽しんでしまいました。
大変ロマンチックでありながら風刺が入ってきたり、そしてただロマンチックだけに終わらない現実的な作者の視線が素晴らしいです。
コレラの時代の愛
非現実的かもしれないくらい壮大な愛の世界を描きながら実は普遍的なことを語っていて、
そして人は常にその大切なことを忘れているのだと思うのでした。