映画『クイーン』の感想

2023年7月15日

私は、この作品についてちっとも調べることもせず、一応観に行こうかなと思いながらも、後回し、後回しにしているうちに、上映期間が終わりそうになってきて、もうあきらめるか・・・と思っていたところ、またもやKからメールが来たのでした。

「絶対に気に入るから、観に行ったほうがいいぞ~」

ってことで、その日は池袋で硫黄島2部作を観たあとに「クイーン」を観るという、3本立ての強行軍となりました。
Kも3本ともつきあってくれちゃって・・・(^^;)

まー、いろいろと話もできて、それも良かったし。


それにしてもこの「クイーン」、本当に良く出来ているので、びっくりしました。
宣伝ではまるで、ダイアナ妃の死の真相解明?!みたいな雰囲気が漂っているのですが、そういうんじゃなくて、わりと淡々と、事実のみを語る、といった感じでした。
それが実にいいんですね。誰かに感情移入させたり、肩入れしたりという表現は避け、ひたすら公平に描いていく姿勢には好感が持てました。
それに、観る者に考えさせるという作り方なわけで、そういうところがとても良い作品だと思いました。


今日は画像をたくさんUPしているのですが、なぜかというとこの、ヘレン・ミレンの表情の作り方が凄いからなんです。
こうして並べて、比べてみると、シーンごとに複雑で微妙な変化のある表情をなんとも見事に表現しています。


この、なんともいえない悲しみの表情とか。


気品があって・・・

この、手のしぐさ、かたち。

うーん凄い・・・

顔のシワまでが「女王」っぽい気がする・・・(笑)

こういう人が黒を着て、パールを着けると、ただの黒に見えないですね。
ほんとうに上品。
胸のブローチは、中心にやはりパールらしきものが使われており、紋章を模ったものでしょうか、素敵なデザインです。


こちらは「素」のヘレンさん。
最もセクシーな高齢者とやらに選ばれていましたっけ。

61歳!
美しいですね。
知性もあって、品と落ち着きもあって、素敵ですね。

ところでダイアナさんという人は、表では慈善事業に積極的であり、裏では武器商人とつきあっているという、奇妙で矛盾に満ちた人物だったようです。境界パーソナリティー障害という一種の精神病であったそうですが・・・

どのみち、彼女を追い詰めたのはパパラッチをはじめとする、マスコミだったのではないかと、この作品であらためてそう思いました。

マスコミの露出度が高いため、一般的には支持されていたようです。
その反面、控えめであまり表現しない女王側に対するバッシングは強烈でした。
それを支える、若きブレア首相の手腕など、静かでありながら、いろいろなことを考えてしまう素晴しい作品です。

大衆がいかにマスコミ報道に左右され、感情に支配されやすいか、ということがよくわかります。

そして、物事の事実、真実を見る目の大切さ、考えることから生まれる希望への道。

ヘレン・ミレン以外にも、俳優さんたち、皆さん素晴しかったです。
ブレア首相役のマイケル・シーン、ついこの前「ブラッド・ダイアモンド」でダイア取引きしてましたねえ(笑)。
「ラブ・アクチュアリー」のヒュー首相は、ブレアのイメージだそうで!笑えます(踊ってましたが・・・笑)
「ma’am」(マム)と、女王に呼びかけるときに使っておりましたが、今回初めて知りました。
「007 カジノロワイヤル」のDVDが届いたので観ていたら、Mが「もうウチに来ないで」ってボンドに威圧的な態度をするシーンで、ボンドがふてくされて皮肉っぽく「Yes,ma’am」って言うんですよね。
おかげでその皮肉っぽさがよおくわかりました。

印象に残ったのは、女王ファッション。
パール使いや、ちょっとクラシックなテイストのワンピースやバッグ。
また、アウトドアもいいんです。
タータンチェックのスカートに、おそらくゴム引きのブルゾン、足にはゴムのブーツ。
高級スカーフの使い方も素敵でした。
アウトドアファッションにシルクのスカーフをプラスすると、すごく貴族的なイメージになるんですね。
ランドローバーをガンガン乗り回していたのも、印象的でした。
昔だったら馬なんだろうなあ・・・。
狩り、フィッシングなど、アウトドア生活は王室の日常なんですねー。
しかし、やたらに鹿撃ちに出かけるエディンバラ公とか、廊下にズラーっと飾られた鹿の首とかが残酷な感じで気になりました。
それとは対照的だった女王、美しい鹿の姿に癒しを求めていたのかのようでした。

それにしてもこうした作品に求められてしまうのは、事実への正確性なのだと思うのですが、過剰でない、控えめで静かな演出と、ひとつひとつに敬意が感じ取られるつくりで、私は英国王室についてはまったく詳しくないのですが、作り手の真摯な思いが伝わってきました。

人間の内面の複雑さ、繊細さ、人には様々な側面があること、など、セリフは少ないのにとてもよく表現されていました。とても”雄弁”でした。

女王のセリフに
「今は、大げさな涙とパフォーマンスの時代。それが私は苦手なのです。」
というのがあるのですが、それはまさに世界的な問題だったのだと気づきました。

普段、人々の想像力が失われていくことのほうに気をとられ、危惧していたのですが、実はちゃんと息づいていてしかもそれは育っていっているのだと、あらためてそのことに目を向け、前向きにとらえ、考えることで道は開けるのだと、思わせてくれたのでした。

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