ラストキング・オブ・スコットランド

有楽町の劇場。
落ち着いた男性客が多いのですね。
トレンチコートにブリーフケースといった、
いかにもビジネスマン風情の人とか、白髪の紳士も多し。
ひとりで来てる人がほとんどなので、
上映前にも、会話をしている人はなく、静かに上映を待つのでした。

そしておもむろに、ものすごく古風な女性の声でゆったりとアナウンスが。
「みなさま、大変お待たせいたしました。・・・・・・最後までごゆるりとご観賞くださいませ。」

幕がススス・・・と開きます・・・。

20~30年前くらいのレトロな劇場の雰囲気にびっくり。
でも、椅子は新しいので、ゆったりと観賞できました。

アミンが主役ということですが、完全にスコットランド人の医師、ニコラス・ギャリガンの視点で描かれています。
アミンの生い立ちや、アミン側からの視点は一切なしという描き方でした。
そして、アミンよりもニコラスのほうに出演しているシーンが圧倒的に多いので、
ほとんどニコラスが主役といっても良いのでは、という印象も受けました。
ニコラス・ギャリガンという医師役は、数人の西洋人をモデルにして作られた架空の人物だそうです。

アミン役のフォレスト・ウィテカーさん、「フォーンブース」では刑事役で善人だったし、
イーストウッド監督の「バード」では、かのチャーリー・パーカーを演じていて、
外見的にもほっとする優しい感じのキャラクターであり、俳優さんでした。
しかし今回のウィテカーさんは、とにかく、怖い。
ものすごく怖いんです。
人なつこそうに笑っているときも、怖いし、もうその存在感自体が怖い。
じっと見つめられたら、からだがすくんでしまうそうな怖い人物、アミンでした。
凄まじい演技でした。
パンフの中のインタビューで、ウィテカーさんが
「ステレオタイプ化されたイメージではなく、本当にリアルなキャラクターを演じることだった」
と語っていて、リサーチするなかで、単純にダークなイメージではなく、複雑な人間としてのアミンを作りあげていったのでした。
ウィテカーさんの細やかな表情の変化のつけかたには、感心といいますか、見入ってしまいました。

しかし、それに対抗するニコラス役のジェームズ・マカヴォイさんも凄かったんです。
つい最近、「ナルニア国物語」でタムナスさんを演じていて、その心温まる、ジェームズさんの人柄のにじみ出るような演技に、皆感動したものでした。
今回はそのタムナスさんが、がらりとイメージを変え、冒険心と野心に溢れる若き医師。
でも、それがあだとなってダークサイドに落ちてしまうんです・・・。

アミンの権力と狂気の世界に、麻薬のように魅了され、堕ちていくニコラスの姿に、引き込まれてしまいました。
マカヴォイさんの演技と、ウィテカーさんの鬼気迫る演技とのぶつかり合いがあまりにも見事で、すごく見応えがありました。

脚本も、緊張感あふれ、非常にドラマチックに作られていて、ハラハラドキドキしっぱなしでした。
最後のほうなど、思わず泣けてしまいました。

ほんとうに狂気の世界としか言いようのない、独裁政治の状況については、
それほど詳しく映像化されていなかったのですが、
見えない部分に恐怖が感じ取られるという、そんな雰囲気で、
ああ、こういう恐怖の描き方ってあるんだなと思いました。
いくつかのシーンで、目を覆うような残酷描写もあるのですが、
やはりそれは、起こった事実のごくごく一部なのだろうということが想像できるものでした。
これ以上の酷いことがあり得るのだろうかというその残虐なシーンには、こういうことが無数にあったのだなと想像させるにはじゅうぶんでした。
(実はアミンの残酷な行為のことは、いろいろ聞いていたのですが、嘘のような本当のような信じたくないような・・・。でも、映画には実際に登場しなくて良かったかもしれないと思いました)

また、マスコミの取材陣がアミンの話術に、手玉にとられている様子が非常に皮肉に描かれていました。


また、これもパンフにあったインタビュー、マカヴォイさんの言葉が印象的でした。

「この映画の魅力的なところは、悪い人間が常に悪を成すのではなく、善人が常に善を成すのでもないことを示している点だ」

ニコラスは己の無知によって、傲慢になり、とてつもなく大きな間違いを犯してしまう。
このニコラスという人物は、とても象徴的だと思いました。

あと、ニコラスの’70年代ファッションがかなりイケてました♪
グラデーションのサングラスとか、大きく立ち上がった衿、ウエストをしぼったジャケット、すその広がったパンツ。懐かしいです(苦笑)