映画『ブッシュ』の感想

作品情報

 時間:129分
 原題:W.
 製作:2008年アメリカ
 監督:オリバー・ストーン
 脚本:スタンリー・ワイザー
 撮影:フェドン・パパマイケル
 衣装デザイン:
 音楽:ポール・カンテロン
 
 キャスト:
ジョージ・W・ブッシュ – ジョシュ・ブローリン(岩尾万太郎)
ローラ・ブッシュ – エリザベス・バンクス(今泉葉子)
ジョージ・H・W・ブッシュ – ジェームズ・クロムウェル(小林清志)
バーバラ・ブッシュ – エレン・バースティン(沢田敏子)
ディック・チェイニー – リチャード・ドレイファス(田中信夫)
ドナルド・ラムズフェルド – スコット・グレン(清川元夢)
カール・ローヴ – トビー・ジョーンズ(二又一成)
アール・ハッド師 – ステイシー・キーチ
ジョージ・J・テネット – ブルース・マッギル(武虎)
コンドリーザ・ライス – タンディ・ニュートン(清和祐子)
コリン・パウエル – ジェフリー・ライト
ポール・ウォルフォウィッツ – デニス・ボウトシカリス(いずみ尚)
デヴィッド・フラム – コリン・ハンクス
トニー・ブレア – ヨアン・グリフィズ(いずみ尚)
ジェブ・ブッシュ – ジェイソン・リッター
ドン・エヴァンス – ノア・ワイリー
アリ・フライシャー – ロブ・コードリー

世紀のKY男ブッシュ

製作当時現職だった第43代アメリカ合衆国大統領ジョージ・W・ブッシュの伝記映画。

終わってしまいそうで、あわてて行ってきました。
客席はガラガラだったけど、映画はとても良かったです。

ひとりの人間の半生の中に、世界にかかわる歴史上の大事件が、こんなふうにからんでいるんだ・・・と、観終わってから背筋が寒くなりました。
人を一人、生み育てる、ということは本当に重大な仕事であることを痛感した次第です。

オリバー・ストーン監督の視点が素晴らしい。

特に終盤が引きこまれました。
空爆シーンは胸がズキズキした。
当時、リアルタイムでTVで見たことを思い出しました。BSでCNNニュースを見ていたんです。

記憶力は良かったらしく、だけど記憶力だけで他には特にいいとこなしって感じでした。
大統領になってから、スピーチができなくて困り、「丸暗記するから」っていうセリフにはゲッソリしてしまう・・・
記憶力って、頭の良さとは違うのね、きっと。
理想とかビジョンとか何もなくて、あるのは父へのコンプレックス。ああ・・・。


笑おう、たって「苦笑」にしかならないんですよね。
ひとりの男のファザーコンプレックスが、世界の運命に影響しちゃうって、あまりにも大いなる皮肉すぎてしまう。

でも、親がどういう人だったって、そんなの本人と関係ないと思う。
彼に、少しでも他人の気持ちをわかろうとする心があったなら、と思うのでした。

ブレア首相がヨアン・グリフィズにはびっくり!
やけにハンサムじゃーございません?(笑)
数分間だったけど、ジョシュ・ブローリンとヨアンのツーショットは個人的にかなり楽しかったです。

ものをムシャムシャ食べながらものすごく深刻な話をするシーンとかが多くて、そのあたりの演出もさすがに鋭いなと思いました。
でも、ああいう光景って、私から見るととても不思議。
私にとって食べることはすごくプライベートなことですからね。

甘そう~なパイとか食べながら会議してるって、なんだかそのギャップが奇妙だった。

厳格な父ブッシュのジェームズ・クロムウェルも流石の存在感でした。
「ベイブ」の時の役から歳をとってないみたいに変わってないのに驚きです。

とにかく、(意図的に)何か変!というシーンばかりで、それがなんともいえない雰囲気を出してました。


ジョシュ・ブローリンはよくやってましたね~。
学生時代から白髪になるまでの幅広い時代を演じていて。
大学時代はさすがにちょっと老けた学生って感じがしましたけど(笑)。
口が曲がってるのがおかしくって、つい笑ってしまいました。
ジョシュのおかげでかなり楽しめました。
やはりインパクトがあるというのか、次にどういう表情をするのかとか、ワクワクさせられてしまう。
それに、彼特有の色気が、一生懸命この役では出るかでないか~というところに抑えているんだけど、どんなに情けなくなっててもやはり色気がしっかりあって、そこが凄いところだなあと思うのでした。

本当にこれは行間を読む映画。
台詞の間にひそんでいるもの、そしてその裏側に存在するものがわかればわかるほど、胸にせまってくるのだと思うのでした。
これも、監督の音声解説を聴きながらじっくり観たら良いだろうな~と思う作品ですね。

ストーン監督は
“結果に賛同しかねるが、理解はできた”と思ってくれればと思う
と語っていて、ここに最も感動しました。
(ここを読んでくださっている一部の方々には、これが何のことかわかっていただけると思います)
私もそういう観方をしっかり実践できて、勉強になりました。そういう意味で楽しかったです。


監督はリアリズムの追及に関しては妥協しない人。
詳細にこだわって作られていることが、感覚的に伝わってきて、そういうところがすごく好きなんですね。

みんな、そっくりさんのようにメイクして演技して。
それは実に面白かったです。
特に印象に残ったのが大統領補佐官のライス役のダンディ・ニュートン。
いつも眉間にしわ寄せてて、しかめっ面で、ストレスたまってそう~な雰囲気が良く出てました。酷似でしたね。


ほんとうにほんとうにほんとうに・・・真のKY。
夫婦で病院を慰問するシーンなど、寒気がしました。
おみやげのTシャツとか・・・涙がでそうになった。

先日感想書いた「幸せのセラピー」でも奥さん役だったエリザベス・バンクス、なんとも言えない胡散臭い、妙な雰囲気が面白かったです。
ああいうあたりは観るものを深刻にさせない、どこか笑いの要素を含ませている感じが漂っていました。

こうしてあらためて歴史を振り返るように見てみると、確かにオバマ登場の意味のあり方が、明確になるようです。
だからこそ、この時期にこの作品ということなのかもしれないな、と思うのでした。

ボブ・ディランの曲が流れていました。

神様がついているなら

きっと次の戦争は

止めてくれる

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今のところ、DVDのみ。