グッド・シェパード

映画を観るという行為の中には、さまざまな記憶にアクセスし、一致させる楽しみが含まれているように思います。
「グッド・シェパード」を観たときに、何ともいえない郷愁のようなものがこみ上げて来ました。

つくづく劇場で「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」を観ておいて良かったと思いました。
公開当時、何度も何度も劇場に足を運びました。
終わってから劇場を出たときの、あの静かな高揚感と満足感がいいんです。
観る前と後では、視界に入ってくる街の見え方が違っていたのに驚きを覚えました。
レオーネ監督は天才だった。
優れた映画は、絶対にスクリーンで観るほうがいいと思います。


冒頭のシーンはどんなかなあとワクワクしながら待つ間。
大写しになる俳優の顔、その表情、場内に響く音楽、心に残る名セリフ、
登場人物たちの、様々に凝縮された人生に自分や身近な人物と重ねてみたり、
そしてきっと何度も思い出すであろうラストシーン、
今観たことを思い起こしたり、余韻にひたりながらのエンドロールまで。
照明がともり、少し固くなった身体をゆっくりと立ち上がらせて
ジャケットの袖を通し、出口へと急ぐ。
売店でパンフレットを購入し、すぐに開いてみたい気持ちを抑えながらバッグに押し込み、駅への道を歩きながら、頭の中によみがえる色々なシーンに思いを馳せる・・・

そんな映画の楽しみ、醍醐味を、デ・ニーロ監督は熟知しているのだなと思いました。
私はレオーネ監督亡きあと、もうあのような映画らしい映画を観て心からの喜びを感じるということはなくなったのだな、と、非常にさみしく思っていたので、今回は本当に嬉しかったです。

まず一番驚かされたのは演出力の高さでした。
それに全体に漂う上質感。
こういうところが大いに刺激をうけますね。
特に印象的なのは小道具の使い方で、例えば靴、本、眼鏡など。
マットの眼鏡が、年代によって変わっていくのが面白かった。
時間軸が交差するのですが、この眼鏡によってどの時代かがよくわかるという親切な演出。
どの眼鏡も、真面目そうで地味なデザインですが、控えめにオシャレで、すごく気になりました。
ちゃんと度が入っているところも良かったですね。
連絡方法に、アナログな方法、例えばボルサリーノ(帽子)の中にメモ紙を仕込んでおいたりなど。
こういったアナログ的な連絡方法は、ハイテクがメインとなった現代でも実際に使われているのだとか。

ストーリーも引き込まれました。アメリカの闇の部分を深く描いています。
善と悪、そしてその間にあるもの。
表に見せている善の裏側には、深い闇があります。
CIAものなんて、マット・デイモンはジェイソン・ボーンのシリーズでも演じていて、また?と思いましたが同じCIAでも全然異なるキャラクターを作り上げていて、見事に演じ分けていました。
しかし、メイクしていても年をとったようにはあまり見えませんでしたが・・それはアンジーも同じく。
(ジョニーも同じことを言っていた)
スパイといってもこの映画、アクションはなし。
静かにじわりじわりと話が進行していきます。動きも少なめ。
そこがまた渋いです。
特に終盤の展開には唸りました。
ほんの少しずつ謎が解けていき、最後の衝撃の事実までのひっぱり方が巧妙にできていて凄いなあと思いました。
まだ監督経験としては浅いのに、まるで熟練した巨匠の風格です。

キャスティングには苦労したみたいなことが監督のインタビューにありましたが、いやいやもう、素晴らしすぎるキャスティングでございましたね。
次々と登場するあんな顔、こんな顔に、こんなに映画ファンを楽しませてくれるなんてと、大喜びです。
とにかく豪華でした。


この↑ライティング、すっごく綺麗。
マイケル・ガンボン出るわ、マルティナ・ゲディック出るわ、あと嬉しかったのがビリー・クラダップ♪M:I:3に出てたイケメンさんです♪
アンジー姐さんは、弱々しい主婦役ですが、全然弱そうに見えないしいつ裏切るのかとドキドキです(まさかそれをねらってたんじゃないと思うけど・笑)。
それぞれの登場のしかた、死に方、去り方、ここでも演出力の素晴しさに感激です。
マイケル・ガンボンさんてホグワーツの校長先生の印象が強いですが、スーツ着用して出てくると、素晴らしくダンディな英国紳士で、素敵なんですよね。
「レイヤー・ケーキ」の時の彼も好きですね。
「マーサの幸せレシピ」のマルティナ・ゲディックが出てきた時は、おお~やってくれるな~と思いました。
耳の不自由な恋人役のタミー・ブランチャードは、クラシックな顔立ちで「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」のヒロイン、デボラを演じたエリザベス・マクガヴァンに似てる気がして、グッド・シェパード意識した選択なのかなあと思いました。
また息子役のエドワード・ウィルソン・ジュニアも印象に残りました。
清潔感と品のある英国俳優の雰囲気がたまらない魅力です。
次回はケイト・ブランシェットの「エリザベス:ゴールデン・エイジ」に出演しており、今度はコスチューム姿を披露してくれるので楽しみです。
ちなみにこの映画、予告編を観ましたが、キャストも衣装もなにもかも豪華絢爛で、早く観たいなあとワクワクしています。

人の心の深層を、ちょっとした演出で表現するのって、すごく好きなんですよね。
レオーネ監督はそういう表現力に優れていました。
デ・ニーロは、それをうまく受け継いでいるんだなあと思いました。

音楽も大変気に入り、サントラを購入しました。
レトロ気分を味わえるナンバーも入っていて、なかなか良いです。
2時間45分もあるのに、2回も観に行ってしまいました。
他に観るものがなければ絶対にもっと行ってますね。