『勇者たちの戦場』

2023年7月15日

これは、とても秀作でした!
単館上映なのが信じられないくらいの作品。
アメリカでは不人気だそうで、というのも、イラク戦争から帰還した兵士たちの現実を描いたものなのです。
以前、最近のアメリカ映画では自問自答する作品が多く見られる、というようなことを書いた記憶がありますが、この作品もそういうジャンル、反戦ものでした。
私はこういった、真面目で現実を冷静に見ようとする姿勢の作品は戦争ものであれなんであれ、すごく評価したいし、そのような作品を観ていると、友達に出会ったような気分になって嬉しい。

映画を観ていて、内容をよく噛み砕いて理解する前に、全体に漂う雰囲気というか感覚で、作っている人たちの真摯な姿勢を感じ取ることができる、そんな映画でした。
作り手の考え方とか生き方みたいなものって、大切だし、それはかなり作品の中にに表現として表れてきます。
そして深く心に響き、残り続けるのです。

正面から物事を見つめる視点を持ちながら、脚本や演出にも、しっかりした完成度があって、観ている間中、うわ~っとのめりこんでいました。
キャストも皆さんとってもうまくて、それも作品に引き込まれた理由でしょう。
もちろん、自国の話ではないし、身近にそういう体験をした人がいるわけではないのだけれど、人間の本質的なところに訴えるものがあります。
傷つくこと、苦悩すること、罪悪感を持つこと、心が離れる瞬間、また引きつけ合い癒される瞬間、立ち上がり、そして立ち向かうこと・・・などなど、たくさんの要素が共感をよぶのでした。

「真実を知ると、罪悪感を持ってしまう」というセリフが印象的でした。
だから人は、真実から目をそむけるのでしょうか。
でも、真実をまず知らなければ、決して前に進めないと思うのです。

「ある愛の風景」にもよく似ていました冒頭で「ジャーヘッド」なぬるま湯状態からいきなり「見えざる敵」に似た感じのハードな戦闘シーンが展開。
これがかなりの緊迫感と迫力で引きこまれます。
しかしそれはすぐに終わり、その後ほとんどが帰還してからの物語なのです。
「ある愛の風景」ではひとつの家族にしぼっていましたが、「勇者たち~」では4人の話が同時進行します。
そしてまた「ディアハンター」とよく似ていました。
あちらはベトナムで徴兵であるのに対し、こちらは志願兵というところに違いがあるのですが、人間の本質的なところは同じだなと思いました。
4人はそれぞれ人種や生活環境も違い、かかえてしまった傷も異なるわけなのですが、私は4人ともそれぞれに共感できるのでした。
もちろん私は、本当にリアルに彼らの痛みを理解できるはずはありません。
しかし、心に響き、いつまでも自分に何かを働きかけてくれるのです。
こういうところは、やはりアーウィン・ウインクラー監督の演出力の凄さかなあと思うのです。
さすがに良い作品ということで口コミで広がっているらしく、私が行った日の初回は空いていましたが、終わったら入口に大勢の人が並んでて、びっくりでした。
いつも上質な良い作品や他にない作品を上映してくれるシネパトスさんに申し訳ないのですが、あのような行列は見たことがありませんでしたので、驚きました。
サミュエル人気もあるのかもしれませんね。
今回のサミュエルは軍医役でしたが、年を重ねてどんどん渋さが増して、いいですねー。
“背中”が印象的だったなあ。
あと、新人のブライアン・プレスリーが気になりました。
次はどんな役で登場なのでしょうか、楽しみです。
ジェシカ・ビール、実に男前な女性でカッコイイ。
カーティス・ジャクソン(50CENT)もすごく良かった。
彼自身の人生がまさに壮絶であり、彼の存在そのものがハンパじゃないので、俳優としてスクリーンに出てくると本当に存在感があります。

クリスティーナ・リッチがひょっこり出ていました。
「ブラック・スネーク・モーン」で共演したサミュエルつながりで友情出演かしら、などと思ってしまいました。
それにしても彼女って強烈に存在感がありますね~。

劇場へ映画を観に行った後、必ずDVDを購入するわけではないのですが、この作品は手元において、何度も観たいなと思いました。

上のポスターとは少し違うデザイン。