映画『サンシャイン2057』の感想
これは・・・。
最高の作品でした。
しかし、あとからよくよく思いおこして、いろんなことを考えてみると、この作品のテーマは、映画として表現するときにそうとう難しいなあと思いました。
さらっと観てしまうと、わからないかもしれない、実に深い、深いお話なのです。
さて、ダニー・ボイルはいつも、ものごとを断定的には表現しない監督で、白か黒かではなく、グレーというか、観るものに考えさせるスペースをあけておいてくれる、というか。
そういうところが非常に好きなタイプの監督です。
また、ありがちな展開とか、イメージをあえて意図的にはずす、というのが特徴かもしれません。
しかし、こういうやりかただと、映画慣れしていない人や、物事を表面的にとらえて、自分の頭で考えようとしない観客にとっては、「わかりにくい」などという反応になってしまうんですよね。残念なことです。
まあ、もともと作り手は、そんな観客は無視しているんでしょうけれども。
それで、たぶん突き放されたような感覚に陥るのだろうなあ。
某所のレビューを読みに言ったら、そんな感じを受けました。
すでに2回観に行ったのですが、この「サンシャイン2057」、つい最近観た作品の中では一番良かったです。2回観ても、まだまだという感じです。
何度も観て、いろいろな角度から観たり考えたりするのが実に楽しいという、素晴らしい作品です。映画は、やはりこういうのが楽しい。
なにしろ、1回目よりも2回目のほうが感動しました。
1回目は、登場人物の顔と名前覚えなくちゃいけないし、設定とか状況も理解しなくちゃだし、先がどうなるのかってことばかり気になってしまうしで、そういう方向に脳を使うものですから大変で、感動にゆっくり浸れなかったのですが、2回目は、もう落ち着いて感動に浸れて、大満足でした。
しかし、状況も展開もわかっていながら、クライマックスでは、やっぱり熱くなってしまいました。
キリアン・マーフィの演技が良かったのです。
「28日後・・・」のキリアンの役と、ちょっと似ているところもあって、でも、今回の役はかなりかっこよかったですね~。
ついつい、応援してしまいます。
そうそう、「ファンタスティック・フォー」のクリス・エヴァンスも素敵でした。
F4-2も楽しみにしています。
この作品はかなり、シリアスなSFです。
SFというよりは、宇宙かな。
久しぶりに「宇宙」に浸れたなあ~と感激でした。
宇宙船イカロス号のデザイン、とても良かったです。
遠くから宇宙船をうつしだすシーンとか、たまらなくいいんですね。
電気がついてたり、あと、消えるシーンも好き。
眼のレンズのかたちと映像イメージを重ねて表現するところなんかも、有機的なものと無機的なものが実は同じ曲線という見せ方が素晴らしい。
宇宙船の図面というか、構造が理解できてくると、実におもしろいです。
酸素が薄くなるシーンとか、重そうな宇宙服着て宇宙空間に出ていくときの緊張感とか(あれってなぜかたまらなく好きなんです)、無駄のない暗い船内とか、それに内部メカのデザインなんかもわざとらしくなくって、余計な装飾的なものは排除したというストイックな感じですごく良かったです。
映像表現も素晴しかった。
クールな船内の色彩感とか冷たい光の雰囲気に相反するように、太陽のオレンジ色からゴールドへと輝く圧倒的なエネルギーの表現。
個人的に、コンピュータがしゃべるのとか大好きなんですが、「2001年宇宙の旅」のハルを思わせます。
今回は女性の声でしたが。
あちこちに、過去のSF作品と似たシーンが出てきますが、ダニー・ボイルなりにきちんと昇華させて、彼の作品として成立しているので、そこがまた素晴らしいところです。
サール「何が見える?!」っていうセリフが強烈な印象でした。
何って・・・。
何が「見えた」のだろう・・・。
あの「見える」には何か、いろいろな意味や解釈が含まれているように思われました。
この船の名前はイカロスですが、あの、太陽に近づきすぎて翼のロウを焼かれて落ちてしまう有名なギリシア神話のお話のように、悲劇的なものを感じさせ、それが緊張感と重なって、複雑で、そして神秘的なイメージを演出しているのでした。
ところでサールは精神科医という設定なのですが、そのためか、他の乗組員よりも太陽に対するスピリチュアルな感覚や感情を強く持っていたようでした。
まるでとりつかれたみたいになっていました。
真田広之演じるカネダ船長も、通常はとても落ち着きと風格があって、いかにも頼りがいのある船長というイメージをかもし出しているのですが、サールと同じように、太陽に魂を奪われてしまったかのようでした。
カネダはおそらく日本人なのだろうと思われるのですが、日本人が本質的に持っている精神性みたいなものを、カネダ=真田さんは表現していたように思いました。
監督は「ラスト・サムライ」の真田さんではなく「たそがれ清兵衛」の真田さんを気に入り、起用したとのことでした。
ボイル監督も言うように、私も真田さんてすごく上手い人だと思います。
また、後半に登場する、ある「人物」もまた、太陽に対して異常ともいえるほどの特別な感情を持ってしまったようでした。
こういった精神世界を描きつつ、現実的には滅亡の危機にある地球を、命がけで救うミッションを成功させなければならないという、重荷を負ったイカロスの乗組員たち。
地球上での彼らの生活がどうだった、なんていう描写は一切出てこないというのも良かったですね。
詳しい説明がないにもかかわらず、演出と俳優さんたちの演技の巧みさで、観るものには充分、彼らの背景にある生活や人生が伝わってくる気がしました。
そうそう、こういう、想像力をかきたてる演出っていいんですよね~~。
ひとりひとりの、船内での行動や心理状態、それに死に様などが、非常によく描かれていました。
こうしたダニー・ボイル監督の演出力というものには唸ります。
太陽って、人類にとっては「生」の象徴であり同時に神のような存在でもあります。
というよりも、太陽=神なのかもしれませんが、今回は宗教的ではなく、なにやら哲学的なものを感じました。
英語における「GOD」ってイコール、キリストという場合の表現が多いと思うのですが、この作品では、具体的に神がなんであるかとか、そういうことはなく、ただそこにある現実、みたいなものに人間が対峙したときの感情や心理などを表したかったのではないかと思いました。
宇宙の、大きな大きなスケール感のビジュアル表現にはワクワクします。
そして、その宇宙スケールから見れば、人間はほんの塵に過ぎない。
けれどもその塵のような小さな存在が、我々人間なのであって、血が通っていて、感情があって、何かをやろうとする意志があるんだな。
ダニー・ボイルはいつだって、計算された演出の中に押し付けがましさは存在しないんですね。
この監督って、それがたまらなくいいところ。
「あとは、各自で自由に考えてね」という姿勢。
考える自由、想像する自由の楽しさをよく知っているんだと思います。
この手のお話にはいろいろとツッコミはつきものなのでしょうけれども、まあ、SFなのだからそれはそれ、という風に観るべきでしょう。
私も実際どうなのかな~?!ってとこはあったりしましたが、ちゃんと物理学の権威の方をコンサルタントにして、作られたのです。
この作品で「宇宙からの帰還」を思い出していました。宇宙に行った人は、価値観がすっかり変わってしまうそうです。つまり、自己の潜在意識に目覚めるということらしいんですね。とても興味深いです。
おすすめです。
何度も観たい、そして、観るたびにきっと気付きや発見があるだろうという深い作品でした。
いや~いくらでも語れます(笑)。
こういう作品に出会うと、心から嬉しいです。
関連作品
『』