アーティスト
数々の名映画にオマージュを捧げている素晴らしい映画でした。
色がなくて声もない。
この限定された表現世界の中にこめられた心情を読み取り、聴こえてこないセリフに心の耳を傾ける。時々、字幕も出なくなるシーンがあるので、セリフを想像しなくてはならないんですね。
この、想像させるという監督の手法が好きです。
映画の本質的な面白さというか楽しみ方のようなものを、あらためて提示してくれているような気がしました。
私はバレエを観るのが好きですが、バレエも、セリフがない。字幕すらない。そういう中で、悲しんでいるんだなとか喜んでいるんだなとか、あるいはもっと複雑な心の内面とか、また、登場人物の関係や、あるいは過去にあったことなんかも、想像しながら観るわけで、それがとても楽しいんですね。しかも、そういう複雑なことをちゃんと、音楽と踊りで表現されているのです。
映画は字幕があるだけ、バレエに比べたら親切だ(笑)。
色がないとはいえ、映像はとても美しいのです。
古い映画だと、白と黒のコントラストが強くて中間トーンが出ていなくて、白い部分は飛んでしまっている。けれどもあれはあれで情緒があって、アナログな魅力が良いわけです。
本作「アーティスト」の場合、最近の高性能カメラですからきめ細やか。一度カラーで撮影したものをモノクロに加工しているので、中間トーンが非常に美しく表現されています。服の生地の質感などもとてもよくでていますね。
監督のインタビュー記事に、「1秒を22フレームで撮影した」とありました。
サイレント時代っぽい雰囲気を出すためだそうです。
で、ちょっと調べてみたら、サイレント時代は16フレーム、トーキーは24フレームなのだそうで、22だとその間くらいの感じ。16だと、もっと動きが速めな感じになるのかな。そういえばあの頃の映画の人物は動きがチャカチャカとせわしない感じでしたね。
ちなみにディズニーのアニメは24コマで描いていたのだそうで、それだからあのなめらかな動きが表現できていたのですね。
22フレームで撮影すれば、俳優さんたちは普通に演技しても、サイレント時代の俳優に見えるというわけです。
きっとこの他にも、一見しただけではわからない様々なアイディアや技法が使われているのでしょうね。
メイキングの話がもっと知りたいです。
とてもシンプルなラブストーリーですが、それがとても良かったです。
効果音の使い方、わざとセリフを見せず何を言われたかわからないまま終わるシーン、そして、
心に沁み入るラストシーン。
ラストシーン、カメラが引いていく演出がとても好きでした。
様々な古い映画へのオマージュに溢れていました。
私はそんなにたくさんの古い映画を観ているわけではないけれど、それでも
「街の灯」「ある夜のできごと」「雨に唄えば」などなど、次々と脳裏に浮かびます。
けど、サイレントからトーキーに変わる頃のお話というと、私はやはり「雨に唄えば」ですね。カラー作品ですが。
トーキーになってから、ミュージカル作品がどんどん作られヒットしてゆきました。
カメラワークもそれにともなって動きや角度が様々に変化をつけるようになりました。
ジョージ・ヴァレンティン役のジャン・デュジャルダン。
“ハリウッドスマイル”が素敵でした。
フランスの方なのですけれどね。
コメディアンということですが、ダンスもお上手でした。
クラーク・ゲーブルのようなダンディな雰囲気かと思わせておいて、まるでジーン・ケリーのような爽やかで可愛いダンスシーンを披露してくれたり。
まだまだ、色々な表情で驚かせてくれそうな感じでした。
とても奥行きの深い俳優さんだなあと思いました。
ヴァレンティンのイメージは、ダグラス・フェアバンクスなど、数人をミックスしているようです。
これは「バグダッドの盗賊」。
こちらは素のフェアバンクス。雰囲気、かなり似てますね。
サイレントからトーキー移行時期には、ジョージ・ヴァレンティノのように銀幕から去っていった人達も少なくなかったそうです。
それはただ声の問題だけというわけでもなかったようで、色々なことがあったのだろうなあと想像します。
ぺピー・ミラー役のベレニス・べジョ。
彼女は、ミシェル・アザナヴィシウス監督の妻なんですね。
なんとなくエスニックな雰囲気を持った人だなあと思って観ていたのですがアルゼンチン生まれなんですね。
綺麗な人です。
「ROCK YOU!」に出ていたらしいのですが、うーん、思い出せません。観て確認したい。。
忠実な執事・クリフトンが良かったです。
以前にも同じことをどこかで書いていた気がしますが、ジェームズ・クロムウェルって、もうずーっと10年くらい前から歳をとっていないような?ずとこんな雰囲気のような気がします…。
パルムドッグ賞受賞、アギーの演技もすごかった!
賞をあげたくなってしまった気持ちがよくわかります。
とにかく、観終わると、古い映画…1940年代~1960年代くらいの映画が観たくなってどうしょうもなくなります。
何というのか・・・あの時代の雰囲気が愛おしくてたまらなくなってしまうのです。
サントラを購入しました。
ブラームスやストラヴィンスキーなどのクラシック音楽からインスピレーションを受けて、バレエ音楽のようにシーンと音楽が一体化した作曲になっています。