トリスタンとイゾルデ

2023年7月15日

原題: Tristan & Isolde
監督 ケヴィン・レイノルズ
脚本 ディーン・ジョーギャリス
音楽 アン・ダッドリー
撮影 アーサー・リーンハート
編集 ピーター・ボイル
上映時間 126分
製作国 アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国

トリスタン ジェームズ・フランコ 平田広明
イゾルデ ソフィア・マイルズ 安藤麻吹
マーク ルーファス・シーウェル てらそままさき
ドナカー デヴィッド・パトリック・オハラ 土師孝也
ウィクトレッド マーク・ストロング 牛山茂
メロート ヘンリー・カヴィル 内田夕夜
トーマス・サングスター

とにかくスケール感に乏しい作品。
いまどきは海外TVドラマも、かなりのハイレベルになってきていて、
私もいくつかを楽しみに観ているが、決して劇場で観る映画に劣らない品質のものも数多い。
そういう時代のせいか、この作品はどうも劇場で観る映画作品としてはスケールが足りない。
史劇なのでなおさらそれを強く感じてしまうのだろうと思う。
当然ながら、お金をかけたからいい作品ができるわけでもなく、やはり監督の力量が問われるのかもしれない。

また例によって、恋愛の描き方が浅すぎる。
この脚本と演出ではちょっと納得できない。
これが歴史に残る恋愛物語じゃあんまりだ。
抱き合ってれば愛かって、それじゃあ表現力が貧しすぎる。
とくに女優の演技には何も興味をひく要素がない。
なさすぎて退屈。
男2人を虜にし国の運命をも左右する”魔性の女”なのだから、若くてももっと強烈な個性が欲しかった。
薬草をあやつる魔女的なところがあったりする女性だし、妖艶さもほしかったかな。
予算が足りなかったのか、事情はわからないが、とにかくこのレベルだとかなり物足りなさが残る。

まあ、チラシのデザインで、すでに2流感、安っぽさを感じていたのでそれほど驚きもせず。
たぶん、目指しているところが違うんだなと思うしかない。
観始るとすぐにその予想はあたっていたことを確認し、すぐに私は頭を切り替えた。
切り替えておかないと、2時間を苦痛のまま過ごさなければならないからだ。

B級作品は結構好きだし、それなりにというかかなり楽しんで観てしまうほうだ。
できるだけ、なんでも楽しんで観る努力はしている。
作り手が楽しんで作ってくれているのが画面から伝わってくれば、それでいいんだと思える。
しかし、この「トリスタンとイゾルデ」。
こういう、情熱や友情、忠誠といったものをテーマにするのであれば、
やはりそれなりのしっかりした人物描写というものが必要だし非常に重要かと思うのだけど。
リドリー・スコット(今回は製作)は「キングダム・オブ・へヴン」のときも感じたのだが、
人間の奥行きのある内面を描くのは得意でないように思われる。
なんというか、登場人物の輪郭がくっきりしないというか、遠くに感じる。
「グラディエーター」のときは、ラッセル・クロウとかホアキン・フェニックスの、俳優自身の持つ演技力と圧倒的な存在感に助けられていたのかも。
今回の「トリスタンとイゾルデ」も、そういう面で薄っぺらな印象しか残らない。
映像はそこそこ綺麗だし、物語は当然、語り継がれてきた名作なわけだし、もっと壮大に見せてくれたら感動できたのになあと残念に思った。

それでも、お得意のアクションのシーンはそれなりに気合いを感じた。
とくに、試合のシーンは見ごたえがあった。
シーンのつなぎかたなんか、すごくいい。
でも、肝心の心の内面の深さがちっとも伝わってこない。そこが問題だ。
ディズニーの子供向け映画じゃないんだから、もっとこう、大人の演出が見たいわけなのね。
そういうわけなので、頭を使いたくない時とかに観ると丁度いいかもしれない。
多少、ボーっと見てても、置いて行かれることもない。
というか、実際、何も考えず観ていてぼーっとしてしまった。

監督さん、恋愛をなめてるか経験不足か表現力が不足しているのか。
あとは俳優が2人とも若いから表現が未熟で奥行きが出ないのか。
特にヒロインが全然イケてない。
というかこの作品、女はどうでもいいのかもしれないと思った。
男性陣の引き立て役としか思えない。

こういうレベルのものを観ると、最近観た恋愛映画で素晴らしいと思ったのが「ブロークバック・マウンテン」のジェイクとか、ヒースの表現力の巧さ、
あるいは「ニューワールド」でのコリンとクリスチャン、クリオンカ(当時14歳には驚く)らの演技力、表現力の確かさを改めて確認させられてしまう。
彼らの場合、無言で佇んでいても、きちんと演じている人物の内面が表れているし、その人物の背景まで読み取れるくらいに役を「生かして」いると思う。
まあ、今あげた2作のようなレベルの作品と比べても意味がないけど。
どのみち、これはそういうことを求めてもしかたがない作品だからだ。
それにしても、最近これでもかと作られる底の浅い恋愛映画には辟易する。
こうも恋愛を描けないのはなぜなんだろうか?
そして、描けないのになぜ作るのか?

まあ、どのみち完成度には期待してなかったので、じゃあ、なんで観に行ったかというと、イケメン観賞が目的(爆)。
で、期待どおりのイケメンてんこ盛りのキャスティングには大いに満足した。
しかし、私の最大のターゲットはレオ・グレゴリーだったのに、序盤で早くも出番終了となり、
そのショックの大きさから、その後どうしていいか一瞬わからなくなった。
そこでハッと気がついた。
そうだ、彼がいたっけ!
デクスター・フレッチャー♪
彼はなんとか最後まで持ちこたえてくれて(笑)、最後の戦いのシーンでは、とりあえず馬上から剣をふりかざすという、なかなか嬉しいショットもあり、セリフがほとんどなくてイライラしていたのを少し解消してくれた。

他にも、マーク王役のルーファス・シーウェルが根っからの「いい人」を演じていて感心した。
というのは、彼のイメージが「ロック・ユー!」とか「レジェンド・オブ・ゾロ」などの、悪役ぶりが素晴らしく素敵だったからだ。
あの悪魔的ともいえる微笑みや、鋭い目線が魅力的な人だった。
でも、今回の彼の目には、ダークなところはひとかけらもなく、細胞の隅々までいい人なんじゃないかというくらい完璧に善人を演じきっていて、見事だった。
あとはトリスタン役のジェームズ・フランコも良かった。
なんといっても「スパイダーマン2」では主役よりも光ってた。
またトリスタンと”三角関係”のメロート役、ヘンリー・カヴィルも美しい顔立ちだったりと脇役、それに悪役サイドのキャストも良かった。
衣装もとても良かったので、ビジュアル的にはそれなりに楽しめた。

なんだかんだと文句ばっかり書きすぎたが、レオ・グレゴリーとデクスター・フレッチャー、ルーファス・シーウェルが同時に観れるなんてそうそうない(なかなかいい趣味だ・笑)ので、これはDVDでとっくりと楽しみたい(笑)♪