映画『明日、君がいない』の感想

作品情報

 時間:99分
 原題:2:37
 製作:2006年オーストラリア
 監督:ムラーリ・K・タルリ
 脚本:ムラーリ・K・タルリ
 撮影:ニック・マシューズ
 音楽:マーク・チャンズ
 
 キャスト:
テリーサ・パーマー(伊東久美子)
フランク・スウィート(羽多野渉)
サム・ハリス(酒井敬幸)
チャールズ・ベアード(桑原敬一)
ジョエル・マッケンジー(桐井大介)
マルニ・スパイレイン(米澤円)
クレメンティーヌ・メラー(中村公子)

予告編

すごい映画を観ました・・・。

これも、観てからだいぶ経ってしまい、そのときの感動を思いおこしながら書かなくてはなりません。

高校が舞台で、自殺をテーマにした作品です。


観終わって、「ふうっ・・・・・」深く息を吐きました。
しかしそれは、ため息とはちょっと違うのです。
もしかして、息止めてたのか?!というような(笑)。そのくらい緊迫感があったのでしょうねえ。
とにかく衝撃的だったし、ものすごく完成度高いし、始めから終わりまでずっと続く緊張感に圧倒されました。

いろいろと凄い作品なのですが、
まず、製作当時のタルリ監督(オーストラリア出身)は19歳(完成時は21歳だそうです)ということ、また、
監督は実際に同じ高校内で友人が自殺し、その後自分も自殺を考えるようになったけれども、この映画を作ることで、その最悪の状態から抜け出ることができた、との壮絶な経験が背景にあったわけです。
また、キャストのほとんどは演劇学校で選ばれた無名の子ばかり。
そして、カンヌでの20分にもおよぶスタンディング・オベレーション。

そういった作品の背景もすごいと思うのですが、作品そのものの完成度が高いということが、なにより感動でした。

ガス・ヴァン・サントがわざわざ電話してきて褒めたそうで、確かにちょっと作風に似た感覚はあるかもしれない。
すでによき友人同士だそうです。仲間、って感じなのかな。
でも、これはまったく新しくて、若々しくて、脚本にしても撮り方にしても、演出にしても、ほんとうに素晴しい出来栄えです。
音楽も、クラシックを多用しており、高校生たちの若々しい雰囲気に重厚さが加味されて、いい感じでした。
美しいビジュアルと、交差する時間軸なども、非常に巧みで、実に上手いなあ~と思いました。


爽やかなキャストの面々も、とっても達者で、どの人物にも引き込まれました。

ティーンエジャーの、なんとも形容しがたい不安定さと、心細さと、それから一途さ、健気さなどの危ういバランスの保ち方。
皆が表の顔と裏の顔を持ち、誰もが自殺してもおかしくないような、ひりひりした学校の空気感が、とてもよく表現されていました。
「学校は偽善だ」というセリフ、印象に残りました。
会話や挨拶はかわすけれど、心は通じない。
親に電話してみるけれど、やはり心は届かない。
教師も、すぐそこにいるのに、果てしなく遠い存在。
う~ん、自分が10代だった頃に感じていた「あの感じ」、痛いくらいに伝わってきましたね。
オーストラリアの、とある高校だけど、きっと世界中に通じるものがあるのでしょう。

完成度は高いけれど、それはまだ成長していく予感を含んでいて、まるで未完成の美ともいえる気がしました。

人は皆、表と裏があって、普段は裏を見せないようにしているんですね。
でも、ふとしたときにその「裏」が見えてしまうことがあるんです。
そこら辺の演出なんか、ほんと、すごいなあと思います。
実に巧妙に脚本に取り入れているんですねえ。

光と、闇。
緑の木の葉を下から撮影して、キラキラと透けて見える光の様子は、心の闇と対比させているかのようでした。

哲学的な深さがとてもよかったです。
次回作もその次も、大いに期待しています。

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