映画『善き人』の感想
作品情報
時間:96分
原題:Good
製作:2008年イギリス、ドイツ
原作:C・P・テイラー
監督:ヴィセンテ・アモリン
脚本:ジョン・ラサール
撮影:アンドリュー・ダン
音楽:サイモン・レイシー
美術:アンドリュー・ロウズ
キャスト:
ヴィゴ・モーテンセン(井上倫宏)
ジェイソン・アイザックス(木下浩之)
ジョディ・ウィッテカー(宮下典子)
スティーヴン・マッキントッシュ(倉富亮)
マーク・ストロング(山内健嗣)
予告編
1930年代のドイツが舞台。
誰もが何かを犠牲にしながら懸命に生きていた。
病気の母、意志の疎通がうまくいっていない妻、元気をもてあます子供たちに振り回させる。
豊かではないしあわただしいけど、ごくあたりまえの日常。
そういう日常を維持しよう、支えようとする大学教授ジョン・ハルダー。
あたりまえのことに必死になる、それが善人であろうとする普通の人間の姿なのだなあと彼をとおして語られるようだ。
しかし、時代の残酷さはそれを許さない。
一人の男が運命に引きずられていく。
話が進むにつれ、ジョンという人間の弱さが浮き彫りにされていく。
ヴィゴ・モーテンセンはそうした人の弱さ、心の葛藤をとても見事に演じていた。
彼の持つナイーブなイメージが、ジョンのキャラクターによく似合っていたように思った。
ドイツがテーマの映画やドイツ映画がとても好きだし強烈に興味をひかれるので
友人の試写会の葉書が残っていると聞いて、即、手を挙げてしまった。
50人ほどしか入れないような小さな試写室での上映で、あとで知ったが当日の来場者の5分の1が知りあい同士だったそうで驚いた。
本当に映画友にはいつも温かい心遣いをいただき、感謝しっぱなし。
どんな時でも優しくて、素晴らしい人達ばかりだ。
深い友情で結ばれたユダヤ人の親友モーリス役にはハリー・ポッターシリーズでマルフォイ父役だったジェイソン・アイザックス。とても親友思いで、素敵な紳士。
ジェイソン・アイザックがとても素敵だったこともあり、ジョンとモーリスの友情関係のエピソードはとても心に響くのだった。
愛人役のジョディ・ウィッテカーは、演技なのかその持前の雰囲気なのか、悪女っぽいイメージで、それがなんともいい雰囲気を出していた。「ヴィーナス」は未見なのだが、老紳士を翻弄する役らしいから、やはり小悪魔的な雰囲気は天性のものかもしれない。
ジョンの母役ジェマ・ジョーンズの存在も、心に沁みた。歳をとり身体が弱り、また孤独で、やはりここでも人間の弱さが痛いほど伝わってくるのだ。
スティーヴン・マッキントッシュやマーク・ストロングの登場が嬉しかった。
特にスティーヴンは出番も結構多くて、制服姿も楽しませてくれた。
ヴィゴの眼鏡と前髪と制服などなども、ファンを楽しませてくれて、物語のシリアスな面とは別の楽しみ方もできたり・・・。
しかしながらやはり終盤で親衛隊の制服を着るジョンのシーンにぞっとさせられる。
ずるずると邪悪さに引きずられ、気がつけばかけがえのないものを失っていた。
収容所のシーンは何分間だったのだろうか、おそらく延々と長回しと思われた。圧巻だった。
果てしない喪失感に、胸が締めつけられた。
ジョンの幻想と思われる、音楽や歌が聴こえるシーンが何度かあったが、とても不思議で深層心理に訴えかけてくるようで、印象的だったし面白い表現だなあと思った。
舞台を知らないのだけど、唐突に歌が入るというのはあれのことなのだろうか。
「ワルキューレ」や「ヒトラーの贋札」や「わが教え子ヒトラー」、それから「誰がため」などなど・・・の作品を思い出していた。
あの時代、何か才能のある人はユダヤ人であれドイツ人であれ、ヒトラーに利用されていたことは多くの映画で表現されている。
今までたいていはドイツ映画でこうした作品を観ていて、なかにはシリアスすぎず、ユーモアで笑いとばしていたり、本国ならではの表現や昇華のしかたをしているなあと思う。
本作「善き人」は原作がイギリスで、監督はウィーン生まれのようだけど、主役のヴィゴ以外はキャストもスタッフもほとんどイギリス人。なので、いつものドイツ作品とは少し違った趣が楽しめた。