インランド・エンパイア
ネガティヴなことはクリエイティビティを殺す。
by David Lynch
好きです、デヴィッド・リンチ監督。
さて私は子供の頃から、絵を描いているのが日常でした。
絵が好きだとかいうのではなくて、ただ何となく、手が動いて絵を描いているという感覚でした。
つまり絵というのは、ただの身体の一部でしかなかったのです。
私が絵を描くと周囲の大人たちは決まって
「その絵はどういう意味なのか」
という、誠に退屈極まりない発言をしたものでした。
その時子供であった私は、大人と議論はできませんでしたが
毎度毎度繰り返されるそのことにうんざりしていました。
意味なんか・・・!
なぜ、「感じる」ことをせず、「考えて」しまうのだろうか。
なんとなく、デヴィット・リンチの「インランド・エンパイア」を観て、そんなことを思い出していました。
そう、意味なんか考えるより、感じる映画。
監督は、退屈な批評とか、興業成績を考えすぎたりとか娯楽性とか、そうした「映画」に対して挑戦状をたたきつけているのではないんだろうか?
わかろうとすると無理があります。
”理解”しようとすればするほど、この作品の本質からズレていく気がします。
完全に感覚で観るように作ってあるので、自然にそうなる。
観たあとは、確実に脳が活性化しているのです。
翌日、目が覚めてからそれを感じました。
久しぶりにデヴィット・リンチ作品を観賞するために、恵比寿まで行くことになりました。
(あとで新宿でも上映しているのを知った)
といっても渋谷の隣なんだから。
そっか、そういえば六本木よりは近かったんだわ。
豊洲よりも全然近いじゃない。
いや、そうじゃなくって、あの音響とか見上げるスクリーンが疲れるし、それに整理券もらって番号呼ばれていちいち面倒臭いから。
とかなんとか頭のなかで1人ブツブツ言いながら、延々と動く床を歩き、やれやれとたどりついたら、結構並んでいます。
・・・そうこうするうちに、やっと中に入れる時間になりました。
番号を呼ばれる間に、ふとお客さんを見ると、男性ばかり。90%は男性でした。
それも、30~40代くらいの、上級カジュアルファッションを着こなし、クールな眼鏡をかけたオシャレで知的な感じの男性ばかり。
皆さん体型もスッキリした人ばかりで、太った人がいない。
クリエイターっぽい人もちらほらと。
う・・・。
なんか、レベル高そうな雰囲気に珍しくやや緊張気味。
さて・・・
映画なんですが。
何と言っていいものやら。困ってしまうのですが・・・
例えて言いますと、始まるやいなや、脳みその蓋がパッカリと開いて、そのままラストまでず~~~っと行っちゃう感じで、
キョトーンとしながら観てますと、たまーにドライバーで脳を突付かれる、みたいな感じ。
時々、にや~っとしてみたり(怖)。
というか、はっきり言って、ついていくのが大変です。
でも、リンチ先生はそんなことは知らないよ~っと言わんばかりに好き勝手に進めて行きます。
なにしろ、出演してる俳優さんたちだって、何をやっているのかわからなかったと聞きましたΣ( ̄ロ ̄lll)そうだったのか・・・
前作の「マルホランド・ドライブ」からさらに、意味不明さがパワーアップしております。
現実なのか、夢なのか、妄想なのか。
とてもとても深い、意識の深層に連れて行ってくれる。
大体、リンチ先生はインタビューで
「この映画に出てくる3匹のウサギについて説明してください」
って聞かれて
「それは出来ない。」
ですもんね・・・(爆)
ええ、ええ、そうでしょうとも。
でも、あの3匹のウサギ人間のシーンはとても好きです。
寝てる間に観る夢って、ほとんど意味不明なんですが、まあ、ああいう感じでしょうかね(笑)。
しかも、どっちかというと悪夢に近い。
ぐるぐると迷宮に迷い込んで、なんかもう、ヒロインみたいにどこかわけのわかんないところに行ってしまいそうでした。
一応、サスペンスのようでしたが、ホラーみたいになるところがあって、笑えた。
しかし時々、私の意識は遠くなっていました(汗)。
まじめに夢の世界に行きそうでした・・・。
時々もや~んとした、ピントボケボケの映像と、音楽とノイズの雰囲気で頭がボーっとしてくるんです。
しかし、それがまた味なんですよね。
最近は、ひたすらクリアーな映像に目が慣れすぎているので、こういうのもかえって新鮮です。
登場人物が多いし、ヒロインは何役もやってるし、場面もあっちこっちに飛ぶから、もー大混乱。
大変でしたけど、とりあえず睡魔と闘いながらも、全体的な流れは理解できました。
クラシックなインテリアとか、’50年代調のファッションなど、リンチらしい演出が素敵でした。
独特のセンスがいいんです。
キャストも色んな意味で凄かったです。チョイ役であんな人が!こんな人が!
特に、裕木奈江の登場にはびっくりでした。
しかも英語の長ゼリフ。
映画監督役のジェレミー・アイアンズも、良かった~。
エンドロールはめちゃくちゃオシャレでした!最後の最後まで立たせない!
とっても新鮮でした。カッコイイなー。
終わったときには
リンチ先生の授業はこれで終わりです。
そんな感じでした~(^^;)
ああ・・・でも、きっとリンチ先生はまた、観る人を陥れようとしているんです。
そうに違いない。
私はこの知的感覚ゲームのような監督の罠にはまり、再び劇場へ行きたいという欲求がおさえ切れないでいます。
3時間をリピートするのはキツイのですけど。
でも行きたい・・。