ダーウィンの悪夢
この世には、表があれば裏が存在するのです。
・・・という映画を、また観ました。
この作品を作ったフーベルト・ザウパー監督はこう語っています。
生命にとって、1番危険な懸念は知らないこと、無知だと思います。
どんなに絶望的な、つらい現実も、それが現実ならば知ることには意味があると思うのです。
だけど、「そんなの知ってるよ」という人ほど悲しいひとはいないのです。
アフリカにある、ヴィクトリア湖は、ウガンダとケニアとタンザニアにまたがっているとても大きな湖。
世界で3番目に大きい湖。なんと九州の2倍もあるそうです。
生物多様性の宝庫として「ダーウィンの箱庭」と呼ばれてきたとのことです。
その湖に、ナイルバーチという巨大肉食魚が放流されて(理由は漁獲高を増やすためだったらしい)繁殖し、在来種を減らし、生態系を破壊した。
日本でも、似たような話がありますね。
ブラックバスという、外来種を、放流したことで、やはり在来種が激減し、生態系を破壊した。
釣りを趣味とする人達にとっては、食いつきが良いらしく、人気がある魚なのですが、食べるにはおいしくないとかで、ちっとも減らないようです。
実に身勝手、そして無責任な話ですね。
素敵な箱庭が、悪夢になってしまったのです。
まさに、悪夢のような現実でした。
このナイルバーチのおかげで、タンザニアの食品輸出の1位が「魚のフィレ」になった。つまり3枚におろした、身の部分だけを、ヨーロッパとか日本に輸出してるのです。
産業がさかんになり、それは一見、いいことのように見えます。
しかし、、地元ではごく一部の人がお金持ちになっただけで、住民の貧困はますますひどくなったというのです。
ナイルバーチは、日本国内のレストランとかスーパーでは普通に売られており、またお弁当などにも使われているそうですので、そういうところで食品を購入したり食べたりすれば、その白身魚はナイルバーチだったりするわけです。
怖かったのは、飛行機でロシアから積んできた武器をアンゴラなどで降ろして、帰りはナイルバーチを積んでヨーロッパへ行くそうです。
ナイルバーチを運んでいるのは表向きの言い訳なのでした。
魚を運ぶパイロットは、武器の密輸やさんなのです。
しかし、だからといって、ナイルバーチボイコットしてもほとんど意味はなさそうです。
(私はとくにボイコットしてるわけじゃないけど、魚食べません・・・)
ナイルバーチがダメなら他の何かに変わるだけだからです。
現に、武器と引き換えにブドウを運んだこともある、とパイロットは答えていました。
さらに、危険な漁で命を落とす人も多いようです。
ワニもたくさん住んでいるので、足をなくした人も町にはめずらしくない。
親をなくし、あるいは家に住むことができなくなったストリートチルドレンのあまりにも悲惨な生活の様子。
年頃の女の子たちや夫を失った妻は売春をし、そしてエイズが蔓延。
戦争をやってくれたほうがお金がもらえるからいい、なんて発言までありました。
問題の根はどこなのか、もはやわからないくらいになってしまっている現実でした。
ぐるぐると、負の連鎖がまわっているのです。
監督は
私の撮る映画を通して、皆さんが何かを感じて、考えたい、思考したい、と思ってくれればそれで満足です。
とインタビューのしめくくりに語っていました。
とにかく武器のボイコットをしなければいけない、とも監督は語っていました。
ところで、映画の手法としては、実に冷静な視点で、恐怖ということを観るものに確実にイメージとして伝える映像でした。
観終わって、ものすごく疲れましたし、やりきれない気持ちになりました。
それで、自分にはいったい何ができるのだろうと考え続ける新たなエネルギーをもらったという感じでした。
ただ生きて、死ぬ。
それだけでもじゅうぶんなのかもしれないけれど、
それでもやっぱり、考えてしまう。
悲しい気持ちにはなるけれど、現実は知っておくべきだと思います。
そして、自分もシステムの一部なのだということを知るのです。
今日、仕事場から帰る途中にコンビニののぼりが目にとまりました。
「タルタルソースのフィッシュフライ・バーガー」
いかにも、ビーフ100%のハンバーガーを食べるのは健康に悪そうで、気がひける人向きに、なんとなくヘルシーなイメージの、その文字を見ながら「ダーウィンの悪夢」を思い出していました。
観れて良かったです。
フーベルト・ザウパー監督は、ムーア監督のように太っていなくて良かった(笑)。