ハードボイルドに倫理観を考える『ノーカントリー』

2023年6月22日

実は3回観ました。

深いです。

ハードボイルドな雰囲気がまさにツボだったし、とにかくすべてにおいて完成度が高いです。

印象に残ったセリフ。
「敬語を使わなくなった結果がこれだよ」
敬語って、考えてみると相手を敬うことなんだなあ……と、このセリフでつくづく思いました。

相手や周囲の人を気づかわなくなり、無関心さや倫理感の欠如といったものに疑問符を投げかけているんだなと思いました。

そして、原因はひとつじゃない、とも……。

原作の訳者解説によると、原題は
「No Country for Old Men」
で、老人の住む国にあらず、という意味だそうです。
出典はイェーツの詩だとか。

出会いが人の運命を狂わせていく恐怖。
追うものと、追われるもの、そしてさらにそれを追うもの。
彼らの人生が交差し、物語は進んでいきます。
じっと息をひそめて観ておりました。

娘もすごく気に入って、終わってから2人であのシーンがすごいよね、、、あそこのあの撮り方もすごいよね、と、監督の演出のレベルの高さや映像の素晴らしさに感動しっぱなしでした。
完璧な作品ですね。

どこまでも追う男、シガー(原作ではシュガーとなっていた)役のハビエル・バルデムの演技には脱帽でした!
というか可愛い……。コワ可愛い(笑)。
髪型がおかしくって~~それに、Gジャンとか、化学繊維製のパンツとかがやたら気持ち悪さを増幅!(笑)
ターミネーターのような怖さがありましたね~。あるいはハンニバル・レクターか。
無表情だし、怪我とかしても淡々としてるし。それにあの異様な執拗さ。
彼を全然知らなくて、初めてこの作品で観た人は、ただただ怖いというイメージになってしまうかもしれないのですが、素の彼は、ものすご~くオシャレでセクシーで、情熱的なラテンの血が流れてる、とーっても素敵な人なんですよね。
今年のオスカー受賞式の時の、タキシードの完璧な着こなしや、素晴らしい笑顔を観たら、
ええ~~?!この素敵な人が、あのシガーなの?と信じられない気持ちになりますね~。
『夜になるまえに』のハビエルさんは素敵です。カストロ政権下のキューバで、表現の自由を奪われて苦しむゲイの役。
自由について、芸術という表現について考えさせられる作品です。
監督が実際にアーティストなので、そのあたりの気持ちがとてもよく表れていて、良い作品です。
オリヴィエ・マルティネスも素敵だし、あとジョニー・デップがぶっ飛び!登場シーンでのけぞりました……
『海を飛ぶ夢』は未見なのですが、友人が貸してくれると言ってくれて、すごく楽しみにしています。

最近いきなりブレイク中、追われる男モス役のジョシュ・ブローリンもまた、めちゃくちゃカッコイイ!
惚れぼれしましたね……。娘もカッコイイって言っておりました。
ついこの前、『アメリカン・ギャングスター』でもワルでカッコイイ警官役でしたね~。
夜のホテルのシーンがすごく良かったなあ。あのシーンの照明効果、素晴らしかった。

奥さまはダイアン・レインなんですよね。

ベル保安官役のトミー・リー・ジョーンズはあいかわらずの、ほどよく力の抜けた渋い雰囲気で素敵でした。
テキサス&メキシコの空気が、もうすっかり身体になじんでいて、画面の中の景色にまったく無理なく溶け込んでいて、自然体でした。
やはり土地で生まれ育った人は違うなあと思いました。

ふつうはこの手の作品には女性客いないけど、今回はなぜか多かったですね。
アカデミー賞のせいかな?

ハードボイルドで、西部劇の間合いも上手に取り入れられているし、夜のシーンの照明効果なんかもほんっとに上手い!
思わずうなりました。
まだまだ観たいですけどね……劇場はもう無理かな。

観終わると、ウエスタンブーツがはきたくなるのです。

原作も面白いです。

独特の文体とテンポにはまると、楽しい。

コーエン兄弟の過去作品で観たものをちょっとご紹介します。
どれも素晴らしいです~~~

撮影はハリー・ソネンフェルド。
彼いわく
「美しくてカッコイイ映画」
まさにそのとおり!
こちらも完璧な映像と、独特の世界観にどっぷり浸れます。
ちょっと『ジェシージェームズの暗殺』の雰囲気も感じられます。
構図と照明が素晴らしい。望遠レンズを使っているところも注目。
主役のガブリエル・バーンも最高です。

これは、実話をもとにした犯罪もの。
小さなことが予想のつかない大きな事件に発展していく……

「なぜ?理解できない」

これは女性警官のセリフなのだけど、
『ノーカントリー』にもリンクしている問いかけ。
ここに、監督の、観るものへのメッセージがあります。

お金の入っている黒いカバン、『ノーカントリー』に出てくるものとかなり似ていますが、同じものかなあ。
撮影は『ノーカントリー』と同じ、ロジャー・ディーキンス。コーエン兄弟と組むことが多いようですが『ショーシャンクの空に』なども彼の撮影。美しく、知的な奥行きのある映像感覚がいいです。

コーエン兄弟作品、他にも入手済なので、これからどんどん観ていきます。

あとこれもご紹介。