ブレイブワン

いろいろと考えさせられる作品でした。
うん、いい映画でした。
完成度も非常に高くて、全体の美的センスも素晴らしかったです。


この映画を観たあとにたまたま、アナウンサーの盗撮事件記事を目にしました。
彼女が勇敢に犯人を捕まえたことにとても感動しました。
しかしながら、非常に卑劣な行為でありながら立件できないとのこと。
このようなことを知るにつけ、結局自分の身は自分で守れということかと思ってしまいます。
また、ニューヨークから起こった自警団、ガーディアンエンジェルスが渋谷で活躍中という記事も読みました。
いいことだと思うけど、それだけ街に危険が存在することかと思うと喜べないですね。

最近はまっていた「デクスター」という海外ドラマがあって、トラウマをかかえた警察官が、裏では殺人者で、法では裁かれない犯罪者を次々と殺していくというお話。
このドラマに出てくる警察の人たちは、決してサボっているわけでもなくて、皆、一生懸命仕事しているんですよね。
それでも、つかまらない犯人やまたは裁判になっても裁かれないで終わってしまう事件もあるわけです。
それらの悪人をデクスターが処分していくんです。
善と悪の描き方とかバランスがおもしろくて、はまってました。
しかしこのドラマはかなり過激な内容でもあり、また、アメリカが抱える未解決事件へのストレスを晴らそうとしているかのようで、興味深いものがありました。


この手の、法や警察の手に負えない事件を解決したり裁いたりとか、また復讐物語みたいなものなら、アメコミとか映画の中ではいくらでも存在していたわけです。
そしてそれらはわりと普通に悪を退治したりしていました。
日本でももちろんその手のお話は無数にありますね。
「ブレイブワン」で興味深かったのは、そのように今までありがちなストーリーであるにもかかわらず、実はタブーだった部分に焦点をあてています。
まったくの一般市民、生身の人間が、武器を持ち、人を裁くことができるのだろうか、復讐は正当なのか。
と、この作品は観るものに自然に考えることをさせるように作られているんですね。
構成も演出も、とてもよくできているなあと思いました。
二ール・ジョーダン監督って、クールできちんとしてて、だけどどこか温かくて、そういうところがすごくいいですね。
ジョディがインタビューで、この作品について「娯楽作品として観客が感情移入できるスタイルが成立していて、
なおかつ、すごく大きな問題について観客に思考を促す」と語っていました。

またジョディは来日の際に「銃を持つことは勇気ではない」キッパリと語ったそうです。
で、”許せますか、彼女の選択”というキャッチコピーにまたもや首をかしげるんですね。
なんとなく違和感が。
なんかこう・・・誤解を生むなあと思うわけです。
許すとか、許さないとかを論じてる時点で、ズレてる気がします。
その、ズレたところへ焦点を持っていってるこのキャッチコピーはつまり、傍観者的なのです。

銃=勇気ではない、ということはわかりきってこの映画は作っているわけだし、
主演のジョディも発言しているように、当然わかっていてこの役を演じているわけです。

エリカ(ジョデイ)が銃を手に入れるシーンが、とても嫌な感じを受けました。
簡単には手に入らないはずの銃が、すんなりヤミで買えてしまう。
銃が手に入らなかったら?
また、違う道があったのかもしれない。
でも、銃がそこにあるからと、それだけが殺人の理由にはならないわけですね。


さてこの作品の主要二人、ジョディ・フォスター、テレンス・ハワード。
この二人の親友のような関係が素敵でした。
全く違う世界のはずの二人なのに、深い部分でつながっている。
ラジオでエリカが彼について語るシーンが心に残りました。
ふたりとも、スクリーンに登場してくると、とても安心感があるんですね。
ジョデイの相手役のナビーン・アンドリュースも。
俳優さん、女優さんというのは、安心感を与える造形と雰囲気を持っていて普通なのでしょうけれども、そういう中でも、彼らは特別かもしれません。
特に、ジョディ・フォスターには何だかわからないけど、絶対的な信頼感みたいなものがありますね。
そしてこれはほぼ間違いなく、世界中の共通意識として存在しているのではないでしょうか。
彼女が演じることで、どんな役も説得力を持って観るものにせまってくるところが凄いなあと思います。
刑事役のテレンス・ハワードもいいですね。
やはり彼が画面に出てきた瞬間に、「ああ、この人がきっと助けてくれる。」と思わせる包容力と安心感があります。
テレンス・ハワードなら絶対味方になってくれて、そして決して裏切らない、なぜかそう思ってしまいます。
さらに、恋人役は出番少なめながら大注目なのです。
「LOST」でサイードというメインのキャラクターを演じているナビーンですが、彼もまた安定感のある雰囲気、優しさと包容力があります。
しかし、彼は「LOST」ではとても強くて絶対的に頼れる強いお兄さんキャラという印象が根付いてしまっているため、
通りすがりのチンピラが3~4人かかってきたところで、あっけなくやられてしまう人ってイメージではないんですよね(笑)。
つい最近のロドリゲス映画でも、ゾンビ相手に戦っていましたし。
逆に、3~4人くらいはあっという間に倒してしまうんじゃないか、そんな雰囲気の人です。
そういう意味でも、個人的には冒頭の事件のシーンは非常にショッキングです。


ジョディさんは確かに、多くの人が感じているように“サイード”の婚約者としてはちょっと年上すぎかなあと思うのですが、
ま、世の中には色々なカップルが存在しており、例えばデミ・ムーアとアシュトン・カッチャーのカップルなどは、羨望の的ですし。
それにジョディさんは年齢を感じさせないシャープなイメージを保持し続けており、実にクール・ビューティそのものでした。
カッコイイです!
汚れ役を演じていても、内面にあふれる知性がその凛としてゆるぎない美しさの理由でしょうか。
ジョディさんの着こなすファッションも、さりげなくこなれたカジュアル感覚が良かったです。

そうそう、飼い犬の存在が非常に興味深かったですね。
犬は、飼い主に忠実なのだけれども、善悪の区別を理解することができない。
人間界の善と悪は、いったいどこで区別しているのだろうかと、あの犬の存在によって考えさせられます。

印象に残ったセリフ
「死ぬ方法なんていくらでもある、生きる方法を考えて」

ブレイブは、勇気。

この映画における勇気とは、何だったのだろうかと考えていました。
結局は生き延びることだったのだろうと、思うのでした。

なんとなく・・・イーストウッドの「許されざる者」を思い出していました。
また、観たくなりました。