ワールド・トレード・センター

初日に観てきました。
毎日、この作品のことが頭から離れません。
さ~~、今日は語るよ(笑)。

オリバー・ストーン監督は大好きな監督のひとり。
何を撮るにしても、いつもしっかりと骨のある仕上がりで、決して期待を裏切らない。
実にパワフルで、勇気と希望にあふれたメッセージは、深く心に残る。
今回も、非常に衝撃と共感と、希望と勇気と、そして脳への刺激、とたくさんのものを与えてくれた。
この作品もまた、とても深い。
かつては、政治的メッセージの強い監督として知られていたが、最近の彼はちょっと違う切り口を選択している。
アレキサンダーもそうだったが、最近の監督は、人間の根源に根ざしたテーマを追い続け、それを作品としている。
もうちょっと違う言い方をすれば、霊的な領域というのか、癒し系な傾向になってきているように思う。
過去作品を見直してみれば、もしかするとずっと基本的なところにそれは存在していたのかもしれない。
それは、今の時代がそういう癒しを強く求められているとも言えるし、ある意味ストーン監督自身の悟りとも言えるのでは、と思っている。
アレキサンダーにもその傾向は随所に見られた。
あの作品は興行的に失敗だったのだけれど、一部には根強いファン層を確立したし、もちろん私も熱烈ファンのひとり。

彼の作品は、脳の深層を刺激してくれて、そういうところがたまらない魅力である。

今回の作品も、表層だけ観れば単なる救出劇、家族愛の感動物語で終わるだろう。
助かってよかったね的な、そんな単純なはなしではない(いやもちろん、それもすごく大切だけれども)。
実はこの作品の根源は、もっと深いところにあるのだ。

ストーン監督作品は、一筋縄ではいかない。
アレキサンダーのときも、2回、3回と、関連本を読んだりして勉強しながら解読するようにして作品に隠されたメッセージを読み取った。
今回も、意味があるんだろうなあと思わせるショットがいくつもあった。
監督は別に、隠しているわけではないのだと思うが、悲しいかな、頭の回転が追いつかないのである。
なので、何度も何度も観ることになる。
それで、気になるシーンが潜在意識の中にストックされていって、数日経過してから、
「あ・・・そういえばこんなシーンあったな。あれは何を意味していたんだろう?」
などと気が付くのである。
こういう深さが、ストーン監督のたまらないところだ。
潜在意識に引っかかって、それを解決しないとなんだかスッキリしないものだから、
再度観にいくことになる。
ところが、観に行ったらまた、新たな疑問が発見されてしまったり、
または、ああ、そういうことだったのか!
という結論に気が付いたり。
結局、わからないままに終わってしまい、あとでDVDの解説によって判明することもある。
私は、こういう映画の楽しみ方が実に大好きなので、
そういう意味でも、ストーン監督が好きである。

今回の作品で特に印象に残ったセリフは、
「痛みは生きていることを教えてくれる」
である。

ここに、監督のメッセージが込められていたことは、とりあえず読み取れた。

辛いことや、絶望、悲しみ、そうした様々なマイナスの出来事に、
人間は失望し、希望などとても持つ気にはなれないと思うだろう。
しかし、痛みがあるからこそ、生きているという証であり、
生きていること、幸せだということを実感できるのである。

先日観た、神田昌典先生の舞台「With You」にも、共通するメッセージがあった。
もう立ち直るのが不可能と思われる、そういう最悪の状況になったとき。
「今の状況を10段階でどのレベルだと思いますか?」
「・・・3くらいかな」
「ゼロ、じゃないんですね!?」
そう、いつだってゼロなんてない。
そしてその3を5にすればいつか10にとどくかもしれない。

私にも過去、そういう経験が幾度もあった。
絶望という言葉でしか表現できないような状況。
希望なんてもう残されていないような最悪の状況。
でも、そんな時いつも自分に言い聞かせることがあった。
「まだ、やっていないことがあるんじゃないか?やれることをすべてやりつくしたか?」
そうして一歩を踏み出すことで、最悪の状況から脱することを学ぶのである。
皮肉とも言えるけれども、いつでも重要なことを教えてくれたのは最悪の時だった。

癒しは、真実をま正面から受け止めるところから始まるのである。
現実を知り、直視し、対峙することを避けているなら、
永遠に癒しはやってこないのである。

さて、主演のニコラス・ケイジは、最近見直した俳優のひとりである。
というよりも、日本の雑誌などでとりあげる俳優の書き方は、読む人に誤解を与える表現が多いように思う。
つい最近観た「ロード・オブ・ウォー」での演技と、その作品への姿勢に共感した。
今回のオファーについても、「俳優としてなにか人々の癒しになることがしたかった」
とコメントしており、出演料をチャリティーに寄付したとか。
インタビューを読むと大変思慮深い、頭の良い人という印象だった。
なるほど彼もまた、与えられた自分の役割について深い考察をしているのだなあと思った。
それに、かなりのコミック好きらしく、次回作は「ゴーストライダー」。
これはとても楽しみ!
それから、相棒のマイケル・ペーニャもとても良かった!
「クラッシュ」のときもすごく印象的だったが、彼の表情には温かな人間味にあふれているし、すごくかっこいいと思う。
ニコラス・ケイジとのやりとりが最高にいい。
身体をまったく動かさず、極限状態の演技をし続けることはかなり難しいと思うのですが2人には、本当に感動しました。
また、2人を救出に行く、海兵隊のカーンズ軍曹も非常に印象的だった。
神の啓示を受け、自分の役割を再認識した軍曹。
生き埋めになった人を救うことが自分に課せられた使命なのだと、
まっすぐに目的に向かっていく姿に共感した。
教会で、開かれた聖書のページは「ヨハネ黙示録」・・・。
妻たちを演じるマリア・ベロとマギー・ギレンホールも、意志が強く、忍耐強くて、役にぴったりでした。

家族側の視点もしっかりと描かれていて、脚本家が女性ということもあるのか、
女性的なソフトな視点や、待つ身の心情の変化など、シンプルに描いているところがとても素晴らしかった。
シンプルでエモーショナル。

深く心に残るシーンがいくつもある。
いくつも、いくつも。
大切に作られたシーンには、ひとつひとつかみ締めながら観賞する価値がある。

もう、私は、冒頭の導入部分でほとんど、この作品で言わんとしていることがズシン、と心に響いて、感動しまくっていた。
そう、なぜだかあの、ニコラス・ケイジ扮するジョン・マクローリンがまだ暗い早朝に起きて、(それもアラームが鳴る前に)出勤していく様子を観ているだけで、深い感動を覚えた。
私は、冒頭部分ですでに泣いてた。
21年間、ずっとマクローリンは同じ朝を黙々と繰り返し続けていたのだろう。
いつもと変わらない日常。変わらないでほしい日常。変わらないはずの、日常。
そこからいきなり、非現実的でありながらそれを現実と認めなければいけないと思い知らされるシーンがすごく良かった。
バスに乗った警官たちの表情をスローで追いかけていく。
うわあ、いいなあ、この表現・・・。私はその美しいシーンにうっとりと見とれた。

そして、ビルが崩れたあと。
説教がましいセリフもないし、悲しみをわざわざあおるようなこともしない。
ある意味瞑想のようなシーンが、後半は続いていくのだ。
闇と、痛みと、静寂。
観客は苦痛に思うだろう。
しかし、ここに真意があるのだ。
脚本と演出のシンプルさが、この作品のよさをとてもよく表していると思った。

ストーン監督はまた、俳優の個性や力を引き出すのが、実に素晴らしいと思う。
一瞬にとらえる、その表情の完璧さ。本当に天才的だなと思う。

また、カメラワークにも彼のお気に入りというか、彼独特の目線ある。
アレキサンダーのときは、鷲の目線で戦場を追いかけていくシーンがあった。
今回の作品では、それよりももっとはるか上方、衛星まで行ってました。
宇宙。それは、もしかすると神の目線なのかもしれない。
カメラワークでもうひとつ印象に残ったのが、救出されて担架で運ばれるシーン。
上からの構図は、まるで英雄アレキサンダーが最後の戦いで負傷して盾に乗せられ、運ばれているシーンと同じだった。
そんなに珍しい構図とも言えないけれど、あれはなんとなく、英雄に対するオマージュなのではと思った。
監督に言わせると、いつもの大胆さは抑え、かなり控えめな映像だとか。
しかし、控えめでもきちんと骨太さと説得力のある映像感覚はさすがだ。

神=イエス。
これはキリスト教でない我々からみればちょっと理解の範囲外、ともなるが、
人が究極的に追い詰められたとき、そこに発生するのはやはり「祈り」なのではないかと思う。
「ダ・ヴィンチ・コード」のなかでもトム・ハンクスがそのようなことを語るセリフがある。
あの部分は妙に私の脳の片隅にひっかかって、とれないでいる。
その、祈りの対象となるのは、なんだっていいのだ。
神でも、宇宙でも、自分でも、信仰心のあるなし関係なく、
とにかく人は、そういうときに祈るという行為を自然に行うのだ。
何かを信じる、ということを決してやめたくはないのだと思う。
信じることをやめることが、生きることを否定することにつながるのだ。

ストーン監督はまたひとつ、名作を残した。

そしてあの忌まわしい事件は、私たちの中に、
確実に、決して消えない何かを残した。
この作品によって、人間が本来持つべきものは、ちゃんと内在しているんだということに気付かされる。
それは、失ったのではなく、眠っているのだ、ちゃんとすぐそこにあるんだ、という希望を私に確認させてくれた。
このことは、2ヶ月ほど前に、ある友人によって私に伝えられたことでもあり、
ストーン監督やこの作品にかかわった人々によってそれはしっかりと裏付けられた思いだ。

しかし、この作品のストーリーは、事件のはなしではなく、人間のはなしなのだ。
だから、どこでどんな生活をしている人にも、響くはずのテーマだと思う。

本当にオリバー・ストーン、あなたって人は。
凄すぎます。
ストーン監督のような素晴らしい作品を生み出し続けている芸術家が存在し、自分がその時代に生きているという、
それは、私の喜び。

実際に生き埋めになり生還した2人がカメオ出演しているとあとでわかりました。
50人以上の実際に救出にあたった警官や消防士たちもエキストラで参加しているとか。
もうこれは、参加型癒し映画と言うべきでしょう。
また観にいかなくちゃ・・・。