グラン・トリノ
作品情報
時間:117分
原題:Gran Torino
原案:デヴィッド・ジョハンソン、ニック・シェンク
製作:2008年アメリカ
監督:クリント・イーストウッド
脚本:ニック・シェンク
撮影:トム・スターン
音楽:カイル・イーストウッド、マイケル・スティーヴンス
キャスト:
クリント・イーストウッド(滝田裕介)
ビー・ヴァン(細谷佳正)
アーニー・ハー(小笠原亜里沙)
クリストファー・カーリー(川島得愛)
ブライアン・ヘイリー(山野井仁)
ジョン・キャロル・リンチ(五王四郎)
コリー・ハードリクト(咲野俊介)
『グラン・トリノ』の感想
かれこれ1か月くらい、感想をねかしてしまいました。
感動とか衝撃とか、様々な感情がおこって頭の中をぐるぐるしていて、気持ちが落ち着かなく、まともに書けませんでした。
凄かった。
そして、
これがイーストウッドの「答え」か!
と・・・。
「心に雷が落ちるような衝撃」というニューヨーカー・オブザーバー紙のコメントがあったけど、
もう、それはそれは、
凄まじい衝撃で、
私も本当にそのまんまの感覚でした。
感動とかなんとか、そんな生易しいんじゃなくて、
うわあああああ~~~~!
です(笑)。
こういうのってつまり、感情とか思考がめちゃくちゃにかき乱されて、ぐちゃぐちゃで、
なんて表現していいかわからなくなってる状態。
とにかくもう号泣でしたね。
間違いなく、今年の1番決定です。
これ以上のものなんか、ありえない。
今までずっと長い長い間、実に色々なイーストウッドを観てきた私でした。
ハードボイルドで、クールでバイオレンスな作品の中の彼や、あるいはシニカルだけど素朴な温かみのあふれるユーモアの作品の中の彼。
あるいはまた、最近特に人間の深い精神性を語る作品の中の彼。
そんな、今まで観てきた様々な映画の中のイーストウッドが、あらゆる場面に登場しては消えるんです・・・。
そう、今までのイーストウッドの集大成のような、あらゆる過去のイーストウッド作品にリンクしている気がして、そういう意味で私はワクワクドキドキしっぱなしでした。
昔から私は、彼の美しい仕草にいつも見とれていたものでした。
どこまでもハードボイルドな役柄を演じながら、その物腰や仕草には優雅さがあるのです。
スローテンポな時も、そして素早い動きの時も。
あれはきっと、生まれ持った優美さなのでしょう。
煙草(彼にとって大嫌いな)に火をつける時の、ちょっと首をかたむける仕草なんかにしても、
「夕陽のガンマン」の頃の彼とまったく同じだ~!
あれでポンチョ着たらそのまんまだ・・・。
ただ立ってても、その周囲の空気が普通じゃないし、それに、歩く時のあのゆったりした速度。
なんて美しいんだろう。
あらためて神々しいまでに、美しいなあと思いました。
イーストウッドはどこまでいってもアウトロー。
タオという若者もある意味でアウトローなのですね。生まれはアメリカという話になっているけど、ルーツは遥か遠い国、ラオス。
アメリカに住んでるにもかかわらず、家族も親戚も皆、宅配ピザとかハンバーガーとかに汚染されてなくて、彼らの伝統的的手料理を食べてるというところが良いですね。
こういうのを見ていると彼らの民族的底力みたいな、すごく強いものを感じますね。
しかしこのコワルスキーという人物、頑固も頑固、筋金入りの頑固爺さんです。
イーストウッドがやると、もうそれはある意味「スタイル」であり、信念であり、その存在感は強烈な説得力にも思えてきてしまう。
彼が大切にしているグラン・トリノは、フォード社の車で、息子はトヨタ車だったり、それを快く思っていなくて古き良き時代のアメリカにあった、手作りの良さ、大切さが失われていくことを嘆いているかのように感じました。
人種が違えば、言葉も生活のしかたも習慣も表現力も考え方や生き方の価値観まで違う。
そして、少なくとも、何か違う部分があったら、少しでも相手に合わせるように努力するとかできなくても何とか理解するようにつとめるとか、そういうことってどんな場合でも大切だなあと思うのでした。
理解できないからとか気に入らないから排除、みたいなのはとても危険だし、相手にとっても自分にとっても良くないものをもたらすんですね。
過去のイーストウッド作品にたくさんリンクしていて、もうそのツボにきてしまうと、じっとしていられないくらいに嬉しくて嬉しくて、楽しくってたまりませんね。
イーストウッドがなぜ、そういうセリフを、そこで、その顔と仕草でやるのか、ってところまで・・・と勝手に面白がって観ていました。
ちなみに劇中でコワルスキーの結婚当時の写真がチラッとうつるのですが、イーストウッドの若い時の写真使ってて、笑ってしまいました。
大人と子供のような身長差(笑)。
いつものことながら、トム・スターンの撮影は完璧!
ひとつひとつのショットが気持ち良いのなんのって。
構図にしてもカメラの動きかたにしても、実に見事な仕事ぶりでした。
この床屋のシーンが一番好きでした。
「ゾディアック」のジョン・キャロル・リンチとの、まるで漫才コンビみたいなやりとりが最高でした。
間合いとかテンポとか、なんて見事な呼吸なのでしょう。
信頼関係があるからこそ、悪口言い放題できちゃうんだなあ。
それにしてもうまいな~、ジョン・キャロル・リンチ。
ゾディアックの時はひたすら怪しくて怖くて、なのに、この床屋さんみたいなほのぼの系キャラなどやると、すごくはまるんですね。
でも、コワルスキーの「喉を切るなよ」というセリフにはウケた。
“ゾディアック”が床屋やってたら、スウィーニー・トッド並みに怖いかもですね。
ファンとしての本音を言えば、これで終わりなんて言わないで、スクリーンに出続けてほしいです。
この怒ってる顔も大好き。
ウウウ・・・って犬みたいにうなるイーストウッドがおかしくって爆笑でした。
“怒らせてはいけない男”なのです。
(本当に、そうそう、って頷いてしまいましたね~笑)
常に、どんな時でも前向きな希望を与えるという、イーストウッドの基本スタイル。
この余韻は素晴らしいです。
優しい希望に満ちた余韻。こういうことができる監督は、やはりイーストウッドです。
イーストウッド万歳!!!な作品。
イーストウッドの、本物の優しさ、心にしかと受け止めました。
最高傑作って本当でした。
ブラボー!!
そして、イーストウッドの過去作品がいろいろと観たくなってしまって、困っています・・・。